東京五輪の体操女子で「心の健康」を理由に団体総合決勝などを棄権した米国のシモーン・バイルスが3日、個人種目別の平均台に出場した。米国の期待を一身に背負った〝絶対女王〟のバイルスは最後の競技で、心の問題を抱える中でも、米国に銅メダルをもたらした。
競技会場に入ってきたバイルスは緊張した面持ちだった。多くのカメラマンがその動きを追ったが、何度も笑顔を振りまく余裕はなかった。ただ、競技を終えると、安堵(あんど)の表情がこぼれ、小さくジャンプをしながら関係者に手を振るしぐさも見せた。
7月27日の団体総合決勝の競技途中で棄権したニュースが全米を駆けめぐってからも米メディアは連日、「史上最高の体操選手」と称されるバイルスのニュースを報じていた。
米紙ウォールストリート・ジャーナル(電子版)は30日の記事で、2013年の競技会で足を痛めながらも試合を続けようとしたバイルスがコーチの判断で棄権した出来事を紹介。今回は自身から棄権を主張したことを踏まえ、「進化が表れている」と指摘。心の健康を抱えながらも成長を遂げている姿を報じた。
バイルスは16年のリオデジャネイロ五輪で4冠を達成。世界選手権では13~19年の出場5大会で歴代最多19個の金メダルを獲得するなど、米スポーツ界を牽引(けんいん)する国民的スターとなった。
東京では史上初の5冠も期待され、「重圧」は増すばかりだった。米誌「スポーツ・イラストレーテッド」の記者は、国民からの期待とともに「新型コロナウイルス対策によるさまざまな制限が精神面のさらなる負担になった」と話す。
米国内からは心の健康問題を公表したバイルスに対して「あなたを誇りに思う。応援している」(ミシェル・オバマ元米大統領夫人)など数々の励ましのメッセージが届けられた。
バイルスは自身のツイッターに「あふれ出るほどの愛と支援を受け、達成してきた業績や体操が全てではないんだと、これまで信じられなかったことに気づかせてもらえた」と感謝の気持ちをつづっていた。
(坂本一之)