大阪府泉佐野市が、戦前の銭湯(風呂屋)建築の好例として国の有形文化財に登録された「大将軍湯(だいしょうぐんゆ)」(平成29年2月廃業)の再生プロジェクトを進めている。カフェや足湯を備え、歴史ある町並みと一体化した名所に生まれ変わらせる構想だ。新型コロナウイルス収束後、対岸の関西国際空港から訪れる外国人観光客らの利用を期待しており、老朽化で解体の危機にある銭湯の保存・活用を探るうえでも注目される。
しゃれた玄関と浴槽
大将軍湯は南海泉佐野駅から海側に徒歩で約10分。唐破風(からはふ)の玄関に左右の塀はタイル張りで「昭和モダン」をしのばせる。浴室は吹き抜けで、浴槽や床に花崗(かこう)岩を用いているのは珍しいという。タイルの意匠や刻印された製造時期などから、昭和11年ごろの建築と推定された。
「幼い頃、夜中に母と姉が浴室の掃除をしているそばで眠ったものです」。そう目を細めるのは、4年前に廃業するまで大将軍湯を経営していた森一之さん(84)。父の初太郎さんが始めた銭湯は最盛期には付近の漁師ら多くの住民が訪れ、社交場としてにぎわったという。
「コロナ後」にらむ
大将軍湯は建物の老朽化などで経営が困難になり、廃業を余儀なくされたが、市の対応は素早かった。平成29年度に建物の調査を行い、30年11月に登録有形文化財への登録を実現、同12月に土地・建物を取得した。
昨年度策定した保存活用計画に基づき、男女の浴室の一方をカフェやビアバー、ラウンジに、もう一方を貸し風呂か足湯としてリニューアル。2階の和室は着物の着付け教室や落語会など催し物スペースとしての活用を検討している。
今年度中に耐震補強と基本設計を実施。来年度から数千万円~1億円かけて改修工事を進め、早ければ令和5年度のオープンを目指す。市の積極姿勢の背景には、「さの町場」と呼ばれる周辺の町並みを観光に生かそうという戦略がある。
さの町場は江戸時代、北海道や日本海沿岸各地と大坂を結ぶ「北前船(きたまえぶね)」で栄えた豪商らの蔵が立ち並び、景観は昨年度、日本遺産に認定された。