それ、本当にブラック企業? 日本社会に誤って広がる「ホワイト企業信仰」が迎える末路 - イザ!

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それ、本当にブラック企業? 日本社会に誤って広がる「ホワイト企業信仰」が迎える末路

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ブラック企業はアンフェアな環境を作り出す(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)
ブラック企業はアンフェアな環境を作り出す(画像はイメージ、出所:ゲッティイメージズ)

「ブラック企業」を厳密に定義するのは難しい。人それぞれの価値観によって捉え方も異なるためだ。一般的には「大量採用した若者を、過重労働とパワハラで使いつぶす」「違法行為を黙認し、私利私欲を追求する」というふうに、「悪意をもった卑劣な企業」として認識されている。

また一般的にブラックだと認識されがちな業種として、「飲食・接客」「介護サービス」「不動産」「アパレル」「運輸・運送」などが挙げられる。いずれも労働集約的な面があり、激務の割に薄給で、離職者が多いといったイメージが共通しているようだ。

「ブラック企業専門家」としての筆者が定義するブラック企業とは「順法意識がなく、アンフェアな競争で私利私欲を追求し、ステークホルダーに迷惑を掛ける悪質な企業」だ。

ここでのキーワードは「アンフェア」。まともな企業であれば労働法を守り、極力残業させず、残業代も社会保険もキッチリ払ってまっとうな経営をするのだが、ブラック企業は法律を無視し、従業員を馬車馬のように働かせ、払うべきお金を払おうとしない。すなわち労働力を「安くコキ使う」ことができるので、その分商品やサービスをまともな企業より安く出せる。

そうすれば「コスパ」重視の消費者に選ばれ、アンフェアなことをやっているのに競争に勝ててしまう。こうやって「悪貨が良貨を駆逐する」状態になってしまうと、まともな経営をしているまともな企業がばかを見ることになる。これでは世の中は良くならないし、誰も報われないことになってしまう。

ブラック企業は全てが「悪」なのか

最近では、ブラック企業というワードが一般化したことにより、単に長時間労働の企業を「ブラックだ」と指弾するのを目にすることもある。もちろん、先述したように、長時間労働やパワハラで労働者を使いつぶすスタンスの企業であれば、その通りかもしれない。しかし、必ずしも長時間労働というだけでブラックだとは言い切れない面がある。

例えば、ある企業が「ハードワークで離職率も高い」という点だけを採り上げて「ブラック企業だ」という意見があったとする。しかし、当該企業が求人募集段階で「当社はハードワークなので覚悟してください」と明示し、36協定を結んだ上で残業上限時間を守り、かつ残業代をキッチリ支払っていれば合法だ。さらには、「実績に応じて青天井の報酬が得られる」とか「濃密な経験を積めて独立できるため、あえてその厳しい環境を目指す」といったメリットが存在するケースもある。果たして、その会社はブラック企業といえるのだろうか。

「お金」「キャリア」「働く環境」「自由な時間」――仕事や人生において何を優先するのかによって、ある人にとっては理想的な企業が別の人にとっては超絶ブラックであったり、その逆もあったりすることだろう。判断基準としての「ブラック企業」はあくまで相対的なものなのだ。

実際、膨大な赤字を垂れ流し、平然と大量リストラをやっていても「大手有名企業」というだけで応募者が殺到する企業がある。一方、高収益で成長していても、「長時間労働でプレッシャーが厳しそう」というイメージから、ブラック企業だと認識され、忌避されている企業もある。

このように、「いい会社」と「ブラック企業」は表裏一体なところがあり、こちらを重視すればあちらが立たない、といったことが起こり得る。ここで具体的な事例を紹介しながら、「何をもって『いい会社』とするか」「どんな要素があれば『ブラック企業』なのか」「『ホワイト企業』に入社できたら全てハッピーなのか」について考えてみよう。

「いい会社」の定義もまたさまざまだが、ここでは簡略化して「その企業の商品やサービスのユーザーである顧客にとっていい企業」「その企業に投資をしている株主にとっていい企業」そして「働く従業員にとっていい企業」の3つに分けて考察する。

「顧客」「株主」にとって、いい会社とは?

まず、顧客にとっていい企業とは、どのようなものだろうか。筆者なりに考えると、「リーズナブル、高品質な商品、サービスを提供している」「対応が迅速で丁寧」「365日、24時間営業している」「多少の無理難題は聴き入れてくれる」というポイントが思い浮かぶ。

株主にとっていい企業であれば、まず当然「もうかっている」という要素が必要だろうし、「効率良く経営できている」「借金が少なく、財務体質が強固」「継続的に成長している」「差別化できる強みや技術がある」などが挙げられる。

例えば、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」を運営するパン・パシフィックインターナショナルHDを例に見てみよう。

同社は業績絶好調で、2020年6月期は31期連続増収増益を達成した。事業環境が厳しい小売業で、かつコロナ禍にありながら、この業績は偉業といえるだろう。同社はグループ全体の売上高・総資産・時価総額が全て1兆円を超え、国内小売企業ではイオングループ、セブン&アイ・ホールディングス、ファーストリテイリングに次いで4社目となる「トリプルトリリオン」をも達成しているのだ。

同社のROE(自己資本利益率)は13%を超えており、この水準はイオンやセブン&アイを上回っているどころか、TOPIX(東証株価指数)採用企業の平均水準をも上回っている。「8%を超えれば優良」とされるROEにおいて、同社は日本トップクラスの優良企業とさえいえるのである。

しかし、同社は以前、長時間労働などが原因で「ブラック企業大賞」にノミネートされたことがあり、また業界ならではのハードワークというイメージが根強いのか、ネット上ではブラック企業とのうわさを目にすることもある。つまり、株主にとっていい企業と定義できても、従業員にとっていい企業ではない、とされているわけだ。このように、何を重視するか、そしてどんな切り口で捉えるかによって「いい会社」「悪い会社」の評価は真っ二つに分かれるのだ。

ホワイト企業は「万人にオススメの優良企業」なのか

では、従業員にとっての「いい会社」とは、どんな企業だろうか。例えば「無理なノルマや厳しいプレッシャーがない」というのが思い付く。その他、「休みが取りやすく、残業が少ない」「社風や人間関係がいい」などもあるし、人によっては「ブランドや知名度がある」「給料が高い」というポイントも重要だろう。

このように、労働・職場環境が整っており、福利厚生や研修など、従業員へのサポート体制も手厚い企業のことを総称して、俗に「ホワイト企業」と呼ばれる。こちらもブラック企業同様、明確な基準は存在しないが、「離職率が低い」「残業時間が少ない」「安定したシェアを持ち、無理な拡販をする必要がない」といった要素が共通点のようだ。

経済系メディアでは定期的に「平均年収が高い会社ランキング」「離職率が低いホワイト企業トップ300」などといったランキングが発表され、世間からホワイト企業と認識される企業が上位に並んでいる。しかし、この判断基準にも落とし穴はある。名誉のため具体的な企業名は明らかにできないが、これらランキング上位に名を連ねる企業の中にも、筆者がこれまで「もう辞めたい」と相談に乗った人が在籍していた企業や、内部告発が寄せられた企業は相当数存在しているのだ。

例えば、スマートフォン向けゲーム開発などを手掛ける某社は、業界の中でも歴史が長く、株式公開も早期に果たして、現在はほぼ残業もないとされる。効率的な労働環境を成し遂げた、いわゆる「勝ち組」企業である。株式公開までは給与水準も低かったものの、公開後の現在は大幅にベースアップも果たし、業界内では好待遇な部類に属する。そんな、社員にとって何ら不満理由はないはずの同社において、一時期「優秀な人から辞めていく」現象が見られたことがあった。

筆者が調査したところ、理由は、同社の「ホワイト企業化」そのものにあった。

株式公開に合わせて、同社の業務はキッチリと縦割りになって意思決定システムが整備されたが、その分何をやるにも上司の承認が必要になったり、他の部門の領域に重なる仕事を手掛けることは「領空侵犯」扱いになったりと、従前の社風であった自由闊達さが失われてしまったのだ。加えて、組織体制は上場企業レベルにキッチリと整備されたが、中の従業員は上場前の組織に最適化して採用されている。そこにミスマッチが生まれていた上、その変化について従業員がどう感じているかという点に経営者が無関心だったことが原因であった。

そう考えると、従業員にとっての「いい会社」≒ホワイト企業においても、さらに細分化して分析することができそうだ。ホワイト企業と称される根拠である「低離職率、低プレッシャーな環境」は俗に「まったり」と称される。これともう一つの根拠である「高給」を組み合わせて、それぞれの在籍者から訴えがあったネガティブ要素を挙げていこう。

まったりホワイト企業のデメリット

仕事は楽、プレッシャーもほぼないため居心地はいいが、ルーティン業務中心で自分が成長している実感を全く持てない

完全年功序列で、仕事を多少サボっていても評価が落ちない代わりに、成果を挙げたところで給料はほぼ変わらない

上の世代が詰まっているため出世が遅くなる。かつその世代はギリギリ逃げ切れると考えているのか、やる気は見られないのに企業にはしがみつこうと必死

高給ホワイト企業

コンプライアンスが厳しく、残業は絶対禁止だが、12時間くらいかけても終わらなさそうな業務量を8時間で絶対に終えなければならない。高密度ハードワークな環境

求められる能力もコミットメントレベルも高い。そもそも採用基準が厳しい

向いている人には最高の企業かもしれないが、想像以上に高い目標とプレッシャーに耐えられなかった。いくら稼いだところで、お金を使う体力も気力も残らない状態になる

まったり高給ホワイト企業

そんな企業はそもそも存在しない

最後の「まったり高給ホワイト企業」は冗談だが、このように、「誰にとってもいい会社」は存在しないのだ。

従って、「多少ハードワークでプレッシャーも厳しく、ブラック企業と呼ぶ人もいるが、自分はそんな環境で成長したいし稼ぎたい。だからブラック企業を選ぶ」という選択肢もあっていい。もちろん、違法企業への就労を奨励しているわけではないし、違法であることを知りながら私利私欲のために人を使いつぶすような企業は、さっさと潰れた方がいいと考えている。

しかし、世間が言うところの「ブラック」をそのまま真に受けて、思考停止になることは、個人、そして組織の双方に避けてほしいものだ。ただでさえ、競争力が乏しい日本企業において、誤った「ホワイト企業信仰」が浸透して、このまま下り坂を転げ落ちていくことは避けなければならない。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗~『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。

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