【スポーツ医学から見た東京五輪】低酸素トレーニングとシューズ革命 マラソンの記録は飛躍的に伸びた - イザ!

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スポーツ医学から見た東京五輪

低酸素トレーニングとシューズ革命 マラソンの記録は飛躍的に伸びた

低酸素トレーニングで記録が飛躍的に伸びている
低酸素トレーニングで記録が飛躍的に伸びている

 五輪の花形と言えばやはり陸上競技、なかでも最終日に行われる「男子マラソン」でしょう。戦後の五輪では、女子は金を獲っていますが、残念ながら男子はありません。しかし今年は、ホームとしてのアドバンテージがあるので、1936年のベルリン大会の孫基禎選手以来の金が獲れるかもしれません。そこで、スポーツ医学の見地から、近年のマラソンを見てみましょう。

 まず、最近、盛んになったのが、「低酸素トレーニング」です。マラソンをはじめとする長距離レースでアフリカ勢の圧倒的な強さに刺激され、世界中で行われるようになっています。日本では、国立スポーツ科学センター(JISS)が積極的に導入しています。

 JISSには72室の低酸素宿泊室と低酸素トレーニング室が設置されていて、標高1500~3500メートルに相当する低酸素環境下での滞在とトレーニングの両方が可能となっています。陸上選手だけではなく、あらゆる種目の選手が利用しています。たとえば、水泳平泳ぎの金メダリリスト北島康介選手も積極的に利用していました。

 低酸素トレーニング室は、アフリカ勢が育った環境を再現したものです。アフリカ勢と言っても長距離界を席巻しているのは、ケニアとエチオピアの2カ国。2016年のリオデジャネイロ五輪を見れば、男子マラソンの金はケニアのキプチョゲ、銀はエチオピアのフェイサ・リレサです。さらに、男子マラソンの世界歴代10位までの記録は、ケニア・エチオピア勢が独占しています。

 彼らはみな、標高2000メートルを超える高地の出身。平地と比べると20%以上も薄い酸素濃度の中で育っています。そのため、酸素が十分にある平地で走るのは圧倒的に有利なのです。

 また、筑波大学の研究チームの研究によると、脚が長く細身の彼らの血液は、赤血球が小さく、酸素の供給に必要なヘモグロビンの量が多いことがわかっています。つまり、彼らの血液は全身に酸素を運ぶのが容易なのです。

 低酸素トレーニングにより、マラソンの記録は飛躍的に伸びました。しかし、最近はもっと劇的なことが起こりました。リオ五輪の金メダリストで世界記録保持者のキプチョゲのよる2時間切りの世界記録達成です。これは、ナイキによる5年がかりのプロジェクトで、非公認記録とはいえ1時間59分40秒で走ったのですから、世界は度肝を抜かれました。

 この記録が出た最大の秘密は、ナイキが開発したシューズにあります。もちろんフラットなコース、ペースメーカーが先導した点も大きいのですが、カーボンプレート搭載の超厚底シューズの威力は半端ではありませんでした。これまで、有力選手はみな薄いソール(靴底)の軽量シューズを履いてきましたが、超厚底に替えました。マラソンは言うまでもなく、5000や10000メートルなどの種目でも、駅伝でも、みな超厚底を着用するようになったのです。

 大迫傑選手の日本記録も、このシューズによって誕生しました。このようなシューズが開発されたのは、スポーツ医学と技術の発達があったからです。

 まさに、シューズ革命。本来なら、装備によって記録が伸びるのは不公平ですが、商業主義、金儲けのIOCはそんなことは気にもとめません。世界陸連のセバスチャン・コー会長は、イノベーションを歓迎するコメントを出し、「東京五輪で世界記録が誕生することを願っている」と言っています。

 シューズ革命でコロナ禍が吹き飛び、陸上で次々に世界記録が生まれるかもしれません。

 ■富家孝(ふけ・たかし) 医師、ジャーナリスト。1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営、日本女子体育大学助教授、新日本プロレスリングドクターなど経験。「不要なクスリ 無用な手術」(講談社)ほか著書計67冊。

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