逮捕された容疑者の身柄を拘束する裁判所の勾留決定に対し、釈放を求める不服申し立て(準抗告)をした国選弁護人に1件当たり1万円、勾留取り消しが認められれば3万円の報酬を支払う-。大阪弁護士会が今春、全国的に珍しい制度の運用を始めた。弁護士会は従来、長期勾留について、自白を迫る「人質司法」と批判してきた。そんな現状に一石を投じようとする狙いは分かるが、違和感を覚えるのだ。
刑事訴訟法は、逮捕、送検された容疑者の身柄を拘束し続けるため、検察官が裁判所に勾留を請求できると規定。延長が認められれば最大20日間にわたって勾留し、警察官や検察官が取り調べを行う。勾留の要件は証拠隠滅や逃亡の恐れがある場合などだが、罪を認めない容疑者の勾留が長引く傾向もある。
日本の身柄拘束制度に対する国際的な視線が厳しいのは確かだ。海外逃亡した日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告の事件では、起訴前後の拘束が100日超に及んだことを海外メディアが批判。国連の作業部会が日本の身柄拘束のあり方を「恣意(しい)的な拘禁」と断じた。
裁判所でも近年の司法制度改革に伴い、容疑者・被告の身柄拘束を解く判断基準を緩和する傾向がみられる。大阪地裁管内でみると、検察官による勾留請求の却下が増加。勾留が認められなかった割合は、平成27年は約1・1%だったが、31年(令和元年)には約6・8%と右肩上がりの傾向が続いている。
大阪弁護士会も今の状況を人質司法から脱却する追い風とみたのだろう。準抗告強化運動と題して創設した報酬制度は、長期勾留で虚偽の自白を引き出す不当な捜査を牽制(けんせい)し、ひいては冤罪(えんざい)を防ぐ意義はあるのかもしれない。
一方で、国選弁護人が準抗告するだけで報酬が得られる仕組みは、報酬目的の安易な利用を促進させる懸念も生む。容疑者の釈放は法と証拠に基づき吟味する必要があり、報酬という不純物が混じるのは適切でないように思えるのだ。ある検察幹部は報酬制度について「『金のためにやる』とうがった見方をされてもいいのか」と語る。
疑問を拭えないのは、犯罪の中身でなく、十把一絡(じっぱひとから)げにしている点だ。想像してほしい。
例えば性犯罪。逮捕後まもなく野に放たれる性犯罪者による報復や再犯を恐れ、震える被害者の姿を。近年は性犯罪でも早期に釈放される事例が多く、本紙で報じたこともある。弁護士会は新たな犯罪リスクや被害者の保護を考慮していないのではないか。
弁護士法は弁護士の使命として基本的人権の擁護に加え、社会正義の実現を掲げる。容疑者の人権擁護に偏った報酬制度は、それに合致するのだろうか。
(社会部 森西勇太)