「鬼筆」越後屋のトラ漫遊記

短期集中連載『闘将が虎を抱きしめた夜』第1話「願ってもない人」

産経ニュース

予想を外れたオーナーの反応

その後の会話は思い出せないが、答えは霧の中に隠れたまま午後4時前にはオーナー宅を出た。車を運転し、国道43号に合流する信号の手前まで来た。その時だった。左手前に置いていた携帯電話が鳴る。表記は「稲見誠」だった。当時、彼はサンスポの阪神担当キャップだった。

「どないしたん?」

「相談があるんです。阪神の監督なんですが、星野仙一はどうですか? あの人なら絶対にタイガースを変えてくれますよ」

「星野…。そらぁすごい監督やけど、ドラゴンズブルーの色がつきすぎていないか? それに就任要請をしたら受けるのか?」

「阪神が誠心誠意頼めばきっと受けてくれますよ。頼んでみる価値はありますよ」

「そうか…。たった今、オーナー宅から失礼したところやねん。野村さんの後任で悩んではる。どういう反応をするか分からんけれど、これからオーナー宅に引き返して名前をぶつけてみるわ。また、後で連絡する。そうか…今日は甲子園球場で阪神は中日と対戦するんやなぁ。中日監督をやめる星野さんの最後の甲子園球場なのかなぁ…」

阪神電鉄本社で阪神・久万俊二郎オーナー(右)にあいさつする星野仙一監督

電話を切って、車を逆方向に走らせた。車中から久万オーナーに電話を入れて「言い忘れたことがあります」とだけ伝えた。オーナー宅を一度出てから約30分後…。つい先ほどまでいた書斎に座ると、「言い忘れたこと」を話した。内心では『星野仙一さん? ちょっとドラゴンズの印象が強すぎる。それにウチのチームのイメージにはそぐわないのでは…とか言うて拒否反応だろうなぁ』と思いながら…。

「オーナー、今季限りで中日の監督をやめる星野仙一さんが、誠心誠意頼めば阪神の来季の監督を引き受けてくれるかもしれない…という情報が入りました。どうでしょう」

半分は本当の話…でも半分は作り話…。いや、今から考えれば99%作り話だったかもしれない。根拠は稲見誠の〝希望的観測〟にしか過ぎないからだ。

ところが、久万オーナーの反応は予想を外れた。いや大きく違っていた。背中がピンと伸び、疲れていた顔に生気が蘇ったかのようだった。

「それは本当ですか! 星野仙一さん! ウチにとっては願ってもない人です。ぜひともその話を前に進めてください。私は明日、1日で阪神を星野一色でまとめてみせます。それは願ってもない話だ!」

ありゃー、コレはもう後戻りできない。いつの間にか夕暮れを迎えていた。紅葉が始まりかけていた六甲山の山肌を遠くに見ながら、本日2度目の退出となったオーナー宅からの帰り道…。ハンドルを握りながら私の口からは何度も同じ名前が飛び出していた。

「星野仙一…星野仙一…星野仙一…」

(来週に続く。第2話は『ケーシー・ステンゲルとジャッキー・ロビンソン』)

【プロフィル】植村徹也(うえむら・てつや) 1990(平成2)年入社。サンケイスポーツ記者として阪神担当一筋。運動部長、局次長、編集局長、サンスポ特別記者、サンスポ代表補佐を経て産経新聞特別記者。阪神・野村克也監督招聘(しょうへい)、星野仙一監督招聘を連続スクープ。

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