「ゴルゴ13」が“世界一”更新へ 5日に第201巻刊行

産経ニュース

「締め切りは必ず守る」

劇画家のさいとう・たかをさん(さいとう・プロダクション提供)
劇画家のさいとう・たかをさん(さいとう・プロダクション提供)

今年でデビュー65年超。漫画界、劇画界の第一線で執筆を続けられた理由については、次のように語る。

「まずは心構えでしょうか。私の場合、本質的に仕事としてこの世界に入ってきたんです。よく何十年も同じことしていて飽きませんか、なんて聞かれることもありますが、農家が米を作るのに飽きたとか、麦を作るのに飽きたって言ったらどうなるでしょうか。私はそんな気持ちで、生業として劇画を描き続けています。描き始めた当時から、この業界は絶対に伸びると思っていましたからね」

「また、約束を守ることも大事です。締め切りは必ず守る。かつて誌面が少なかった時代に、いつ連載が終わるかもわからない状況で、休んだり、締め切りを守らなかったりすることはありえませんでした。長く連載を続けるためには、これも大切だと思いますね」

「ゴルゴ13」を50年以上連載する中で、さいとうさんは一度も休載をしたことがなかった。ところが、昨年のコロナ禍を受け、スタッフの健康を守るために初めて新作の掲載見合わせを決めた。

あれから1年あまり。執筆や制作スタイルは変わったのだろうか。

「コロナ前では、昼過ぎ頃から仕事を始める典型的な夜型でしたが、今は効率をさらに上げるため、できるだけ朝からのスタイルに変え、分業体制で制作しているスタッフに合わせて私も午前中から動くようにしています。作品のクオリティーを高めるためにも、良い効率化を図れているかと思います」

最新201巻の副題は「最終通貨の攻防」。仮想通貨をテーマにした表題作など3編が収録される。

今後の目標は―。

「続けられる限り、体力が持つ限り描き続けたいです。『ゴルゴ13』は私の作品であると同時に、読者のものでもありますからね。いつも待ってくれている読者のために、一話一話ひとつずつやっていきたいと思います」

初のスピンオフ始動

小学館の「ゴルゴ13」担当編集者である夏目毅さんは、同作の魅力についてこう語る。

「50年超の歴史がある中で、その時々の時事ネタや国際的事件など常に新しい要素を取り込んでおり、飽きない。新聞をめくる感覚で良質のエンターテインメントを楽しめる。その一方で、(作中の)ゴルゴ自身にはブレがありません。ゴルゴという軸がしっかりしているからこそ、(読者は)安心して読むことができるのだと思います」

仕事において妥協をしない。徹底的な準備をしたうえで、責任とプライド、己の矜持(きょうじ)を1発の銃弾に込める―。プロ中のプロであるゴルゴ。愛読者の中には、プロとしてのあり方に共鳴する政治家や会社経営者らも多い。夏目さんは、ある一定の年齢以上の社会人にとって、「ゴルゴ13」がコミュニケーションツールや教養になっていると指摘する。

「ゴルゴはその時代の善悪に左右されず、自分自身の価値観で物事を判断するという〝流されない魅力〟がある。だからこそ、世代を超え幅広く読み継がれるのでは」

<約束を守る>。今回の取材を含め、さいとうさんが「仕事で大切なこと」などを聞かれた際に答える言葉だという。

「先生は締め切りには絶対遅れないし、50年以上の連載で休載はコロナ禍の1回だけ。プロ意識の高さは(『こち亀』の)秋本先生と共通する点ですし、その姿勢が50年以上の連載、201巻につながったのだと思います」(夏目さん)

16日発売のビッグコミック8月増刊号では、「ゴルゴ13」のスピンオフが始まる。半世紀超の歴史で初めての試みという。本編と同じく、手掛けるのはさいとうさんと「さいとう・プロ」だ。

夏目さんは「再来年には『ゴルゴ13』もビッグコミックも55周年。伝統と歴史を大事にしながらも、新しいことにチャレンジしていきたい」と目標を語る。

「漫画界の国宝」

「80歳を過ぎても現役で、連載もたくさんのスタッフも抱えて仕事を続けている。素晴らしいの一言で、日本の漫画界の国宝みたいなヒトです」

「あしたのジョー」(高森朝雄原作)や「あした天気になあれ」などの人気作を手掛け、戦後の漫画界を共にリードしてきた漫画家のちばてつやさん(82)は祝福の言葉を送る。

ちばさんが最初にさいとうさんと出会ったのは20代前半。「今から60年も前、私がまだ少女漫画を描いていたころです」。漫画家としてのスタートが同時期だったこともあり、今も同期生のように感じているという。

劇画家としてのさいとうさんは、60年前から異彩を放っていたと振り返る。

「漫画家は(締め切りに追われ)その場その場を生きるのに精いっぱい。ですが、彼だけは『これからはこういう時代が来るぞ』と言って、何十年も先の漫画界のことを考えていましたね。劇画家でありながらプロデューサーでもあり、先の先まで読んで仕事をしていました」

「義理堅く、友人思いでもあります。私もよく飲みに行きましたが、いつでもどこでも仕事ができるように、黒いスーツケースの中に仕事道具一式を持ってきていたのが印象的でした」

「ゴルゴ13」の魅力について、ちばさんは「徹底的にスタッフを集め、取材やシナリオなど、あの手この手を尽くして作り上げている」点だと語る。

「映画を作っている感覚なのでしょうね。(さいとうさんは)総監督であり演出家であり、脚本家でもある。そして、主役であるゴルゴには、同じように見えて、微妙に違う〝演技〟を毎回させているんです。それを、(内容の)質を落とさずに50年以上続け、読者を楽しませている。本当にすごいことだと思います」

最初の出会いから約60年。さいとうさんは「ゴルゴ13」、ちばさんは「ひねもすのたり日記」と、2人は今、同じビッグコミック誌上で筆を執り続ける。

「さいとうさんはいつも元気で、漫画家仲間はみんな『さいとうさんはゴルゴよりすごいね』と言ってます。ですが、長い執筆生活で疲れもたまってるでしょう。オーバーワークで体を壊してしまわないかだけが心配です。どうぞお体を大事に、これからも描き続けてください」

(文化部 本間英士)

<さいとう・たかを> 昭和11年、和歌山県生まれ。大阪府で育ち、中学卒業後、家業の理髪店を継ぎながら執筆。30年、「空気男爵」でデビュー。33年に上京し、漫画仲間との「劇画工房」結成を経て35年、さいとう・プロダクションを設立。43年、「ゴルゴ13」を連載開始。ほかの代表作に「鬼平犯科帳」(池波正太郎原作・原案)「仕掛人 藤枝梅安」(同)「サバイバル」「無用ノ介」など。平成15年、紫綬褒章。22年、旭日小綬章。

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