午前5時からの朝練後、午前9時~午後6時まではアルバイトに時間を割かざるをえなかった。途中で練習を抜ける日もあった。チームメートは、東京五輪を本気で目指すトップ選手ばかり。「そんな中途半端にやって、みんなの気持ちを下げてしまうんじゃないか」と不安を抱える武良を、仲間たちは温かく受け入れてくれた。
練習量は以前の半分以下まで減った。その分、「みんなの倍か3倍。一回一回の練習を誰よりも頑張ろう」と自分を限界まで追い込んだ。淡々とこなしてきた練習の意味を改めて考え、より速くなるためにどうすべきかを追求するようになった。全体練習後、明確な課題意識を持って「水中映像を撮ってください」と藤森コーチに頼むことも増えた。「自分で細かく泳ぎを考えるようになった。今までは誰よりも早く練習を終わりたいという感じだったのに」。冗談ぽく笑いながら、藤森コーチは教え子の成長に目を細める。
特に、ターン後の動作を突き詰めて練習した。男子100メートル平泳ぎの世界記録保持者アダム・ピーティ(英国)を参考に、手を無駄なく動かすフォームに変えたところ飛躍的にタイムが上がった。昨年12月の日本選手権は2分8秒15まで自己ベストを更新。1カ月前に行われた社会人選手権から約2秒もタイムを縮め、存在感を示した。
そのころには鳥取県水泳連盟からの支援も始まり、昨冬から腰を据えた強化ができるようになった。代表権獲得後には、縁あってミキハウスとの所属契約も決まった。苦しんできた分、そのありがたさをかみしめながら日夜、練習に励んでいる。