寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは? - イザ!

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寮発祥のドーミーインが「大浴場」をどんどん展開するワケ 手掛ける「和風ビジネスホテル」とは?

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蓮花の湯 御宿 野乃 京都七条の大浴場(筆者撮影)
蓮花の湯 御宿 野乃 京都七条の大浴場(筆者撮影)

いきなり全館畳敷きに温泉と旅館風情の話で恐縮であるが、2021年はじめにJR京都駅中央口から徒歩約7分の好立地へ開業した「天然温泉 蓮花の湯 御宿 野乃 京都七条」は、京都市街にあって旅館風情満点と人気を博している。

単純アルカリ泉で冷え性、神経痛などに効能があるとされる天然温泉の大浴場は本格的で、内風呂や壺湯、岩風呂、檜風呂といった浴槽をはじめ、ドライサウナや水風呂、打たせ湯など充実の設備が自慢の宿だ。何より靴を脱いで館内を行き来できるのはリラックス度が相当高い。

実はこちら、ビジネスホテルブランドとして圧倒的な人気を誇る「ドーミーイン」のサブブランド「御宿 野乃(おやどのの)」の施設である。御宿 野乃は京都も含め7店舗(東京・奈良・大阪・鳥取・石川・富山)展開しており、ドーミーインを運営する「共立メンテナンス」(東京都千代田区)は“和風ビジネスホテル”を標ぼうし、ファンから大きな支持を集めている。

ビジネスホテルと旅館のハイブリッドというわけだが、機能性や利便性、和のくつろぎを併せ持つ“いいとこ取り”施設とも表せるだろうか。

筆者は数年前から、シティーホテルのような高級ビジネスホテルなど、「シティーホテルのビジネスホテル化」「宿泊施設のカテゴリーボーダーレス化」を指摘してきたが、“ホテルライクな旅館”もその一つだ。伝統的な旅館がホテルブランドによってリブランドされ、和室にベッドが配されるといった例は散見される。他方、御宿 野乃は“旅館ライクなホテル”とでも言おうか。共立メンテナンスによると「あくまでもホテル」だという。

利用客層の多様化でビジネスホテルも多様化

ところで、宿泊施設としてなじみのある“ビジネスホテル”とはどのようなものを指すのか。駅近、リーズナブル、簡素、部屋が狭い、機能的……イメージは人それぞれであろうが、“ラグジュアリー”や“デラックス”とは一線を画す。これらのワードで想起するのは、ダイニングレストランや宴会、結婚式場など多くのサービスを展開するシティーホテルである。それに対してビジネスホテルは“宿泊に特化しているホテル”と一般的に解されている。

近年、ビジネスホテルの宿泊客は、従来のコアターゲットであった出張族をはじめとしたビジネス客から、ファミリーや観光客などにも拡大。宿泊需要の高まりから、差別化を計るべく各社が多様なコンセプトを有したホテルを生み出している。

そうしたホテルの中には、宿泊に特化しているものの、ラグジュアリー感やハイセンスなコンセプトなどを打ち出し、先に並べたビジネスホテルのイメージにはそぐわないところが増加している。とはいえ、宿泊に特化している=ビジネスホテルといわれることもあり、一部の事業者から困惑するという声や違和感を訴える苦言が呈されている。

これら“ビジネスホテルのイメージ問題”ついては別の機会に譲るとして、ドーミーインも天然温泉大浴場や旅館といった付加価値的なサービスを提供、コンセプト性も相当高いことが特徴だ。しかしながら、ドーミーインのある支配人はやはり「ビジネスホテル」だ話す。

確かにドーミーインの公式サイトには「わが家の感覚のビジネスホテル」と記されている。観光客やファミリーにも支持され、そして出張族の味方でもある“身近な癒し”は、あくまでもビジネスホテルとするドーミーインのスタンスを物語っているかのようだ。そんなビジネスホテルの先端をいくようなドーミーインは、前述の通り共立メンテナンスの運営。同社は1979年の設立で、当初は学生寮や社員寮の運営を主幹事業としていたが、いまではビジネスホテル・リゾートホテルなど多く事業を手がけている。

「寮」からビジネスホテルに進出したワケ

ビジネスホテル事業は93年にスタートした。周知の通り今ではドーミーインの名で全国各地に展開しているが、ビジネスホテル事業に進出した理由について同社の担当者は、「社員寮の入居者から『出張先でも寮みたいなホテルがあったら』という要望からだった」と話す。というのも寮には大浴場設備があったが、当時大浴場付きのビジネスホテルはほとんどなく、ビジネスホテルと大浴場の親和性に着目した。

また、大浴場だけではなく、当初から天然温泉にも注力していたというからその先見性に驚かされる。全国86施設のうち大浴場を配しない施設はわずか2店舗、天然温泉が楽しめるのは66店舗と、大浴場をウリにするビジネスホテルチェーンの中では、他の追随を許さない圧巻のブランドとして進化を遂げている。

現在ドーミーインには5つのブランド、計87(韓国1棟を含む)施設がある。ドーミーインは、寮事業のノウハウから続く我が家のようなくつろぎと快適性を提供するベーシックブランド。ドーミーインPREMIUMは観光ニーズの多様化にも対応できるよう、ツインや和洋室なども充実させたハイエンドブランド。ドーミーインEXPRESSは、日帰り入浴、デイユースなどにも対応した新サービス重視のブランドで、以上の3つがホテル名に「ドーミーイン」を冠するブランドだ。

このほか、冒頭で紹介した和風テイストの御宿 野乃、カプセルホテルの合理性とドーミーインの快適性を両立したキャビンタイプのグローバルキャビンもドーミーインブランドに含まれる。

ドーミーインが注力する大浴場へのこだわり

ドーミーインといえば大浴場というイメージを持つ人は多いだろう。ほとんどの施設が天然温泉という徹底ぶりであるが、露天風呂をはじめ、最近のブームもあってサウナや水風呂などもファンの心をつかんでいる。施設名も特徴があって、最北端である北海道稚内市のドーミーインは「天北の湯 ドーミーイン稚内天然温泉」、東北・仙台には「天然温泉 萩の湯 ドーミーイン仙台駅前」というように“○○の湯”を冠する。

また、天然温泉の施設は“天然温泉”との表記がなされているので、大浴場を持つ施設や天然温泉を楽しめる施設も一目瞭然である。天然温泉でいえば、その場でボーリングをして1000、2000メートルと掘削する自家源泉をはじめ、施設によっては温泉地から運んでくる運び湯もある(天然温泉との表記可)。

一方、若干ではあるが諸事情により天然温泉のない施設もある。その場合は“人工温泉”と表記し、機器の設置すらも厳しい施設は、ハーブなど用いた“変わり湯”などを導入している。天然温泉・大浴場が基本というブランドだけに、ブランディングと温浴条件の一貫性への努力も垣間見える。

また、浴場の特徴として多くの店舗で、内湯:天然温泉/露天風呂:さら湯(浄水)と区分している。露天風呂は温泉ではないが、果実湯を用いる例など季節感もある演出がみられる。これらの研究も相当で、例えば「りんごに何カ所穴を空けると香りが効果的に出るか」といった視点も生かされているという。

大浴場では、脱衣所の清潔感確保も重要だ。完璧とまでいかないのはどのホテルも同じであるが、パウダーコーナーのほこり、髪の毛、床の水滴などへの巡回対策にも力を入れる。一方で、ドーミーインに限らないが、宿泊施設の大浴場でのマナー問題は事業者の頭を悩ますところだ。コロナ禍以前は、激増していた訪日外国人へのマナー徹底が課題になっていた。これは外国人に限らず、日本人といえども、例えば、サウナ後に汗を流さず水風呂を利用するシーンを筆者自身みかけることもあり、大浴場をウリにするホテル運営会社ならではのマナーについての悩みは尽きないといったところか。

ところで、ドーミーインはパウダーコーナーや大浴場も含め、店舗間のデザインに均一感がある。冒頭で紹介した御宿 野乃はまさしく和がテーマであるが、そもそもドーミーインそのものが温泉にフィーチャーしていることから、基本的に和をテーマとした設えになっている。浴場には、木・タイル・岩などを自然の素材を効果的に用いつつもスタイリッシュに仕上げており、照明の演出など雰囲気作りへの気遣いも秀逸。一方でこうしたコンセプトの裏側には実に多くの努力がみられる。

例えば、ビジネス客と観光客の割合などを鑑みつつ施設のレイアウトプランを作成。広さ、露天風呂からの眺望など、地方店舗との差がある都市部の店舗は、より非日常空間を演出するといった雰囲気作りも重視し、郊外や都市部などの立地条件にも着目している。

また、パウダーコーナーなど浴室設備の配置や動線への気遣いも秀逸で、使いやすさにも定評がある。シャワーの水圧、サウナや水風呂の温度など、全国で統一して徹底管理し、店舗間クオリティーの堅持も重要テーマとしている。とにもかくにも開発部門と事業部門で綿密な打ち合わせがなされ実現しているという。とはいえ、ブランディングでいえば、新規開業店舗と既存店舗(特に経年店舗)との差を指摘するゲストの声もある。仕方ない点ではあるが、事業の拡大と共に今後の課題となっていくだろう。

シャワーといえば、ドーミーインでは客室にバスルームを設けずシャワーブースのみというスタイルが多いことに気付く。筆者はさまざまなホテルプロジェクトへ参画する機会も多いが、各客室に浴槽を設ける場合と比較し、大浴場を設ける方がコスト的にみても効率は良いことはよく言われる。

充実した大浴場を持つドーミーインが客室にお風呂を設けないことは理にかなっている。そのシャワーブースも、ラビスタや御宿 野乃をはじめとした新たな店舗では、着座タイプを採用するなど進化を遂げている。大浴場だけではなく客室シャワーブースにも注力するあたりがホテル運営へのスタンスを表していると評せる。

今回はドーミーインの大浴場、温泉や露天風呂などへフォーカスしたが、ドーミーインの大浴場にはサウナや水風呂といったサウナファンにも支持される設備も特色だ。そろそろ本稿のスペースも尽きてきたので、そうした人気のサウナをはじめ、「夜鳴きそば」や、クオリティー高き朝食など、ドーミーイン独自の注目すべきサービスについては次回紹介したい。

著者プロフィール

瀧澤信秋 (たきざわ のぶあき/ホテル評論家 旅行作家)

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