【するりベント酒】“あとひと仕事”の前のカツ丼 何かガツンと入れたい時のパワーチャージ - イザ!

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するりベント酒

“あとひと仕事”の前のカツ丼 何かガツンと入れたい時のパワーチャージ

 仕事をしていて夜になって、腹が減って、しかし今夜もまだまだがんばらないとならない、という時、己のパワーチャージに、トンカツを食べることがよくあった。

 あった、と過去形で書くのは、仕事場の近所から、トンカツ屋がいつの間にかなくなったからだ。牛丼屋の増殖とともに消えていったような気がするが、気のせいか。

 今年の7月13日から、信濃町アートコンプレックスセンターで、ボクの個展がある。それまで一カ月を切ったので、普段の仕事の他に、作品作りの毎日だ。

 連載の締め切りに手こずると、描き始める時間が遅くなり、夕飯の時間がもったいないが、でもここは何かガツンと入れたい。

 と思っているところに、仕事場に届けものに来る人からの電話があった。渡りに船とばかりに、駅ビルのとんかつ和幸の売店で、カツ丼を買ってきてくれませんか、と頼む。テイクアウトでカツ丼、初めての試みだ。とっさに思いついた俺を褒めたい。

 そしたら、なんと注文してから揚げてくれたそうで、あったかいのが届いた。夕飯前で、たまたまカツが売り切れていて、揚げるところからになったらしい。ラッキー。

 ひれかつ丼。あ、この弁当的カツ丼、この連載に使っちゃおう、と冷蔵庫にあった発酵レモンサワーの缶を横に置いて写真を撮ったが、まだ飲ーみーまーせーん。

 ボクは酒飲みだが、飲みながら絵を描いたりするようなこと絶対しない。酒は全部仕事が終わってから!お疲れさんのご褒美なんです。酔っ払ってイイ仕事ができるわけない。

 しかしカツ丼、仕事場で蓋を開けた時の匂い、サイコーですな(じじい語)。卵の匂いがまずシアワセのにほひ。そこにカツを揚げた匂い。揚げたてならではであろう。

 だからやっぱり、カツ丼には蓋が必要なんだな。厨房から卓の間だけでも。カツ丼の蓋を開けた瞬間の、見た目と香りのインパクトは、他の丼ものとは全然違う貫禄とフェロモンがある。男心をぐいっと掴む男らしさがある。ホモって意味じゃなくてね。

 ボクががんばろうとしているところへ、人力車でやってきて、

 「ようがす、わかりやした。さ、乗ってくだせえ」

 と言って、ボクが行くべきところへ、どんな坂があろうが、どんな敵がいようが、雨が降っても槍が降っても、矢のように走って行ってくれる、筋骨たくましい頼れる男、という感じがするんだ、カツ丼はよお。

 そしたら俺はもう、割り箸をパチンと割って、コスカスって擦り合わせて、

 「いただきます!」

 の一声とともに、遮二無二ひたすら食うだけだ。つべこべ言わずに、一直線の電車道で、丼ひとつ食い切るまでじゃい!

 しかし、うまい。仕事の途中で差し入れられた(自分で買ってきてもらったんだけど)カツ丼の、なんとうまいことよ。

 食べ始めたらもう、箸は回転し続け、顎は動き続け、舌がゆっくり味わう暇がないかのように、めしとカツはグチャグチャになって飲み込まれて、どんどん胃の腑に落ちていく。

 おしゃれな三つ葉も、カツに巻き込まれてみるみる潰れて口の中に消えて行った。俺の口はまるでゴミ収集車の後ろのところみたいだ。カツはゴミじゃねえって?わかってらい!このすっとこどっこい。

 あっという間に「ごちそうさま」だ。ありがとう和幸。

 この満足感。満腹感。胃袋の充実感。これでもうひとがんばりできるぜ!(それが終わったら、発酵レモンサワーね)

 ■久住昌之(くすみ・まさゆき) 1958年7月15日、東京都生まれ。法政大学社会学部卒。81年、泉晴紀との“泉昌之“名でマンガ家デビュー。実弟の久住卓也とのユニット“Q.B.B.”の99年「中学生日記」で第45回文藝春秋漫画賞受賞。原作を手がけた「孤独のグルメ」(画・谷口ジロー)は松重豊主演で今年シーズン9(テレビ東京)。

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