東京都心や城南、湾岸エリアなどでは、ここ8年ほどマンションの値上がりが続いてきた。場所によっては2倍以上だ。
しかし東京、大阪ともに郊外エリアでは緩やかな上昇程度で済んでいる。値上がりエリアが限られているので、私はこの現象を「局地バブル」と呼んでいる。
昨年、世界は新型コロナ感染拡大という事態に見舞われた。人も企業も活動が著しく制限された。当然、経済にも悪影響が予想されるので、各国ともにその対策が取られた。多くは金融緩和である。
市場にあふれ出たおカネの一部は、当然ながら不動産に向かう。そのせいか、息切れしかけていた局地バブルは再び膨らみ始めた。
ここにテレワークのための「広さと部屋数」を求めた需要の先食いが発生。多くの人々がすぐにでも住み替えができる中古住宅の購入に走った。
東日本不動産流通機構が公表している統計データによると、今年5月までの直近1年間で、首都圏における中古住宅の在庫はマンションと戸建てを合わせて2万戸以上が減少。これは現時点の在庫の4割強にあたる。急速な勢いで中古マンションや戸建てが売れたのだ。これでは局地バブルが終わりそうにもない。
そもそも、2013年以降のマンション価格の値上がりはなぜ始まったのか。
新築供給の主体はデベ(=デベロッパー)と呼ばれる不動産会社である。リーマン・ショック後の不況で多くの中小デベが淘汰された。今は財閥系などの大手が市場の主役になっている。
デベには仕入れ部門がある。マンション開発のための土地を買い付ける部署だ。当たり前だが、そういった部署にも「年間×××億円分の開発事業が行える用地を確保せよ」というノルマがある。
だが、景気回復期には土地が値上がり気味になる。市場相場でマンションを供給できる価格では、土地が買いにくくなる。それでもノルマを達成しなければならない。だから「えいやっ」とばかりに土地を買う。そこにマンションを建てると、当然、売り出し価格もより高くなる。
13年から始まった異次元金融緩和で住宅ローン金利が低下した上に、審査も緩くなった。で、そんな高値の新築マンションが何とか売れてしまったのだ。
そうなると、高値で買った土地の価格が市場相場となり、さらに値上がりする。そんな土地を再びデベが買い、建てられた新築マンションが、またまた高値で売れる。その影響で、周りの中古物件の相場も上がる。この循環が8年以上も続いている。
要は値上がりした価格で物件を買ってしまう人がいるから、その高値が市場相場として定着する。その高値を受けいれたのが局地バブルエリアで、受けいれられない郊外の価格は、新築も中古も8年前からさほど値上がりしていない。
もっとも、コロナ後はこのようなゆがんだ値上がり循環も、さすがに終わりそうだ。
■榊淳司(さかき・あつし) 住宅ジャーナリスト。同志社大法学部および慶応大文学部卒。不動産の広告・販売戦略立案・評論の現場に30年以上携わる(www.sakakiatsushi.com)。著書に「マンションは日本人を幸せにするか」(集英社新書)など多数。