「最低賃金1500円」にガクブル! 労働者の“ものわかりのよさ”はどこからきているのか - イザ!

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「最低賃金1500円」にガクブル! 労働者の“ものわかりのよさ”はどこからきているのか

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時給アップの訴えに、労働者からは「反対」の声も
時給アップの訴えに、労働者からは「反対」の声も

「日本に生まれてよかった」とガッツポーズをしている中小零細企業経営者の皆さんも多いのではないか。

先週、全国労働組合総連合(全労連)が、25歳の若者が人間らしく生活をするための費用を積み上げた最低賃金を試算して「全国一律で時給1500円が必要」と訴えたところ、非正規労働者などから「1500円でも足りない」などの声が相次いだ一方で、「そんなにもらったら悪いことが起きるに決まっている」と恐怖におののく労働者もかなり多くいたのだ。

ネットやSNSに散見される意見としてはやはりというか、「地方の中小企業が全滅して結局、労働者が失業してしまう」というものが多い。また、「賃金を上げたらどうせ経営側は現場の人員を減らすので結局、1人がたくさんの仕事をさせられそうだ」と賃上げが過重労働のトリガーになることを懸念する声も少なくない。

要するに、時給1500円ももらえるのは嬉しいけれど、そのせいで企業が経営難に陥って労働環境が悪化しないか、ということを心配して「無理して給料を上げなくていい」と考える労働者もかなり存在しているのだ。

このような「ものわかりのよい労働者」が中小企業経営者にとってありがたい存在であることは言うまでもない。6月4日、日本商工会議所、全国商工会連合会、全国中小企業団体中央会という、いわゆる「中小企業3団体」は、菅義偉首相と面会して、コロナ禍で中小企業はどこも経営難なので、最低賃金を引上げずに「現行水準を維持」すべきことを強く要望しているが、「最低賃金1500円」への否定的な声は格好の「援護射撃」となっているのだ。

中小企業3団体は日本医師会同様、自民党の有力支持団体なので解散・選挙前の今はかなり影響力が増している。そこに加えて、一部労働者側からも「急な賃上げ」にガクブルする声が上がっているとなれば、政府が掲げる「最低賃金をより早期に全国平均1000円とすることを目指す」という方針も毎度おなじみの「骨抜き」にされる可能性が高い。つまり、なんやかんやと理屈をこねて、「平日フルタイムで働いて年収200万円以下」といった過酷な労働環境が放置され続けるわけだ。

「賃上げ」に対してストイック

そこで気になるのは、なぜ日本の労働者はこんなにも「ものわかりがよい」のかである。世界の常識では、労働者は「もっともっと」と賃上げを強く迫るのに、日本では経営者の主張に同調して、1000円にも届かない最低賃金で文句も言わず真面目に働いている。そのストイックさは「異常」と言ってもいい。

ご存じのように、日本の賃金は先進国の中でもダントツに低い。この30年、先進国の多くがリーマンショックだなんだとありながらも着々と賃上げしているにもかかわらず、日本の平均賃金は30年以上も横ばいで最近ではなんとお隣の韓国にまで抜かれてしまう始末だ。

この常軌を逸した低賃金の弊害は、社会のいたるところに出ている。地域の最低賃金ギリギリで働くような非正規雇用が2200万人もいてワーキングプアの問題が深刻となっている。親の賃金がいつまでも上がらないので、子どもはどんどん貧しくなる。厚生労働省の「相対的に貧困の状況にある子どもの割合を表した指標」(2018年)によれば、日本の子どものおよそ7人に1人が相対的貧困状態にあるという。

国によっては暴動が起きてもおかしくないほど惨(みじ)めな状態に追いやられているにもかかわらず、「時給1500円なんてとんでもない!」と日本商工会議所みたいなことを真顔で言う労働者がたくさんいる。このような「無欲すぎる労働者」ほど、全国にあふれるブラッ……ではなく人件費をできる限り圧縮して利益を確保したい中小企業経営者からすればありがたい存在はない。

では、なぜ日本の労働者は「賃上げ」に対してガツガツしていないのか。「そりゃもらえるなら、たくさんもらいたいけど、なにもカネだけで働いているわけじゃないからさ」とか「なんだかんだ言って日本人は会社への忠誠心もあって真面目なんだよ」などいろいろなご意見があるだろうが、筆者は日本特有のある労働文化による影響が大きいと考えている。

その労働文化とは、「社畜」だ。

「現状維持志向」が強い

パーソル総合研究所が19年8月に公表した、日本を含むアジア太平洋地域14の国・地域を対象とした就労実態調査によれば、日本の労働者は「勤務先への満足度」が対象国中で最下位。にもかかわらず、「転職したい」という回答も最下位だった。

日本の労働者はよその国の労働者に比べて、「現状維持志向」が強いのだ。いや、論点をはっきりとさせるために、もっとストレートに言ってしまおう。日本は諸外国と比べて、「文句を言いながら会社にしがみつく社畜」が圧倒的に多いのである。

このような会社への帰属意識が強い労働者が多い国で、なかなか「賃上げ」の機運が高まらないことは言うまでもない。「人間らしい生活ができないから最低賃金1500円に上げろ」なんて騒いだら、非正規雇用ならばサクッとクビを切られておしまいだ。正社員でもリストラや左遷の憂き目にあって、「しがみつきライフ」を送ることができない。

つまり、日本の労働者が30年以上も平均賃金が横ばいで文句ひとつ言わず低賃金労働に甘んじてきたのはストイックだからではなく、経営者と対立することなく雇い続けてもらいたい「保身」の思いが諸外国の労働者よりも強いからではないか。

不快になる方も多いかもしれないが、「社畜」の切り口で考えれば「最低賃金1500円」という労働者ならば誰もが喜ぶ話を、「そんなことをしたら恐ろしいことになるぞ」とガクブルする労働者がかなりいる、といった不可解な現象もすべて説明がつく。

実は以前から成長戦略会議メンバーのデービッド・アトキンソン氏が主張しているが、諸外国では「賃金を上げたら失業者が増える」ことを示すデータは存在しない。経営者側の主張に基づく、科学的根拠のないポジショントークに過ぎないのだ。

にもかかわらず、日本では労働者までが「賃金上げたら失業者があふれて日本はおしまいだ」と主張し、「賃上げ」をまるで新型コロナウイルスのように恐れてきた。なぜこんなことになってしまうのかというと、「転職」の視点が欠けているからだ。

低賃金しか払えない会社でも辞めない

「社畜」には「会社を辞めてより良い会社へ転職する」という発想がないので、「失業」がこの世でもっとも恐ろしい。だから、失業につながりそうな「賃上げ」にもガクブルしてしまう。つまり、日本の労働者にとって、実は「低賃金」はそれほど大きな問題ではないのだ。沈みゆくタイタニック号と運命をともにする船長のように、「低賃金しか払えない会社でも辞めない」選択をする労働者が多いのがその証左である。

筆者も昔、ブラック企業にお勤めの人に取材で会った。どれだけ辛いのかを切々と訴えるので、こちらが「心と体が壊れてしまう前に早く辞めたほうがいいですよ」と言うと、「なんでそんなことを言うんですか」といった顔をする人が多い。真面目な性格からか「つらいから逃げ出す」といった行動に対して抵抗感があって、「転職」の選択肢すら考えない人がかなりいた。

このような「会社を辞める」発想のない労働者が多くあふれていることが、「最低賃金を上げたら中小企業が倒産して失業者があふれかえる」という「神話」を広めることに一役買ったのではないか、と個人的には考えている。

という話をすると必ず、「いや、韓国は賃金を上げて失業率が跳ね上がって経済が崩壊したはずだ」と主張する方がいるが、かの国では賃上げうんぬん以前に、韓国特有の財閥を頂点とした超階級社会という構造的問題があり、これが以前よりすさまじい数の失業者を生んでいた。健全な雇用だったところに「賃上げ」で、いきなりおかしくなったわけではない。

また、データをみる限り「経済崩壊」も事実ではない。日本生産性本部の労働生産性のデータによれば、日本の19年の就業者1人当たりの労働生産性(実質GDP÷就業者数)は8万1183ドル(購買力平価で換算したドル価格)で、OECD(経済協力開発機構)加盟37カ国中26位。一方、韓国は24位で抜かされてしまっている。

経済成長という点でも厳しい。IMF(国際通貨基金)の予測(21年4月)によれば、20~26年の日本の実質GDPは8.9%上昇するが、韓国は17.0%上昇する見通しだという。これで「経済崩壊」ならば、生産性でもGDP成長率でも韓国に追い抜かれた日本のことはなんと呼ぶべきなのか。

経済成長をしていない国

日本のメディアは戦前から、日本の国民性や日本社会のシステムを持ち上げるため、他国を下げる「愛国報道」を続けてきて、それは現在も基本的には変わらない。海外のことなど国内の人間はそこまで詳しく知らないだろと高をくくっているので、「韓国は賃上げで経済が崩壊しました」とか「欧州では医療崩壊が起きてます」などと極端な事象を切り取って、国民の留飲を下げるような情報に加工して拡散し、政治やメディアにとって都合のいい世論へと誘導するのだ。

もちろん、このような話をしてもまだ「いや、経済は賃金を上げればいいという単純なものではない、悪いことも起きるのだ」といった人も多いだろう。

ならば、おうかがいしたい。先ほども申し上げたように、日本はこの30年以上、平均賃金は横ばいだ。「一律で引き上げるのではなく、中小企業が成長をすれば自然に賃上げできる」という中小企業経営者の主張を、政治家も官僚も全面的に支持をして、50年以上も税金を費やして中小企業支援をしてきた。賃金をあげるからといった理由で、補助金もバラ撒(ま)いた。しかし、それが労働者の賃金として還元されることがなかったことは、日本の賃金水準が証明している。

つまり、なんやかんやと理屈をこねて最低賃金の引き上げを先送りにしてきたことの結果が、「先進国最低の賃金と生産性」「先進国で唯一経済成長をしていない国」という今の状況をつくっているのだ。

国破れて中小零細企業あり

このように動かし難い事実があってもなお、「最低賃金を引き上げたら日本経済はおしまいだ」と叫ぶのは支離滅裂ではないのか。「人流が増えたら感染爆発だ」と同じで、科学的根拠もない話で国民を脅して「経済死」を増やすことにしかならないのではないか。

当たり前の話だが、産業には新陳代謝が欠かせない。新しい会社、新しい事業が次々と生まれていく一方で、ビジネスモデルが破綻した会社や、時代にマッチしない事業は市場から退場していく。これは弱肉強食だなんだという話ではなく、社会の中で健全に経済がまわっていくには必要不可欠なライフサイクルだ。

つまり、労働者が人間らしい生活を送るための賃金を払えなくなった会社は当然、退場するしかないのだ。しかし、日本ではこの当たり前のサイクルを「弱者切り捨て」と呼ぶ。だから、低賃金しか払えない中小零細企業を「弱者」として税金や優遇措置で延命させているが、それは言い換えれば、「低賃金労働」を国が支援をしていることでもある。その結果として、労働者という弱者を切り捨てるといった本末転倒なことが起きているのだ。

「国破れて山河あり」という故事成語があるが、今の日本は「国破れて中小零細企業あり」だ。本当に恐れるべきは「低賃金しか払えないような中小零細企業の倒産」ではなく、「30年以上も続く低賃金がさらに30年続く未来」である。このあたりについて世界一ものわかりのいい日本の労働者も、そろそろ理解すべきではないのか。

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