「第92期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負」(産経新聞社主催)の第1局を翌日に控えた5日夜、会場の龍宮城スパホテル三日月(千葉県木更津市)では日本将棋連盟の佐藤康光会長らが登壇し、「藤井棋聖、渡辺三冠の強さの秘密」などをテーマにした特別座談会を行った。
座談会には佐藤会長と6日の第1局の立会人を務める島朗九段が参加し、山田久美・女流四段が進行役を務めた。
絶好調の2人がぶつかり合う今回の棋聖戦について、「あまりに舞台設定が出来すぎている。藤井棋聖の初防衛戦ということも注目ですが、渡辺三冠も今年に入って最高の状態だし、藤井棋聖もほとんど負けていない。どっちが負けるのか不思議なシリーズ。どきどきしている」と島九段は高揚感を隠さない。
話題は、やがて2人の強さの「質」の違いに。「いまはAI(人工知能)を使った研究が棋士の中で欠かせなくなった。それで将棋がこの2、3年でがらっと変わった感じがある。今回対局する2人はその中でも先端を引っ張っている」。佐藤会長はそう話した上で、「藤井棋聖はわりと普通の手を積み重ねて勝っていく感じ。渡辺三冠は独特の勘の良さ、感覚の良さがある。そこがちょっと違うところ」と分析してみせた。
それを受けて、島九段も「藤井棋聖の場合は『相手を見ない』強さ。もっと時間を使わずに勝てるかもしれないのに、本当に自分で解答を導き出して時間がなくなってでも正確な指し手を続ける。渡辺三冠は準備力においても当代随一。戦略の名人で、こちらは『相手を見る』強さ。この異質の強さの戦いが、昨年のいいシリーズを生み出した」と話した。
棋士たちは、AIを活用して対戦相手を事前に徹底研究する。その研究量の多さが、勝負の行方にも影響する。第1局について、佐藤会長は「この1年くらい、AIの研究によって、人間が自らの限界の垣根を取っ払ってしまうような『進化』が棋譜にも現れてきている。勝敗だけでなく内容も注目」と語った。
島九段も「2人の将棋はAIのことは意識していると思うが、指し手には血が通っている」と話し、「将棋の進化を体現する戦いになると思う。ファンの方と同じで、『どんな将棋を指してくれるのだろう?』という興味、その一点ですね」と期待を寄せた。