健康保険や厚生年金は、「困った時にお金を受け取るための保険制度」です。いくら受け取れるかを計算する基準になるのが、先に計算した標準報酬月額です。標準報酬月額が高い人は困った時により多くの給付を受けられるメリットがある反面、標準報酬月額が低い人は受け取れる金額が減ってしまうのがデメリットということです。
▼困った時その1 健康保険
長期の療養で会社を休み給与が出ない時などに、過去1年分の標準報酬月額の平均をベースに、その1日分の2/3の金額を休んだ日数分受け取れる「傷病手当金」という制度があります。仮に過去1年の平均が30万円だった場合と、28万円だった場合の受取額の概算は表2のようになります。
保険料月1000円の差で、約1カ月で1万3350円も差が開きます。傷病手当金は最長1年6カ月会社を休んでも受け取れる非常に心強い制度ですから、この差が何カ月も続くとしたらイザというとき等級が低いとかなり切ないかもしれませんね…。
「いや、そんな病気なんてしないし!」という人もケガはいつどんなきっかけで起こるかわかりません。また出産をする女性は産前産後休業期間中も同じ計算で出産手当金を原則98日分受け取れますから約4万4000円の差が生じます。このときも等級を下げたデメリットを感じそうですね…。
▼困った時その2 厚生年金
厚生年金も同様に現役時代の標準報酬月額をポイントのように積み上げていき、これをもとに老後の年金額が決められます。
若いと老後のイメージがまだわかないかもしれませんが、逆に20代などの若い時期でも病気やケガで体に重い障害(内臓や精神の病気なども含まれる)が残ってしまった時には障害年金を受け取れます。また、パートナーや子供を残して亡くなった時、会社員等の場合はその遺族が遺族厚生年金を受け取れる可能性が高いです。
こういった“非常事態”ともいえるケースでも標準報酬月額をベースに計算しますから、低いよりは高いほう方が受け取れる額が多く安心感が高まります。
とはいえ無理に4月~6月の給与を高くして等級をあげるのが良いとも言えません。ずっと続くものですから無理や実態と異なる状態は望ましくないからです。
一年の途中で標準報酬月額を変えられるのはどんな時?
4月から6月の給与で決められた標準報酬等級が実態にそぐわなくなるケースでは、年の途中でも実態に合わせた等級=保険料に変更できるケースがいくつかあります。
例えば昇格や降格などで給与の固定的な部分が変わった場合や産休・育休を終えて復帰した後に給与が変動した場合、所定の条件を満たすと4カ月目からは変動後の給与をベースに等級が変更されます。
このほか、毎年年度末から年度初めは残業が増えるような仕事の場合、4月から6月の給与が増えて等級が上がってしまうけれど、その時期を過ぎると残業が減り給与も減るパターンもあることでしょう。こういったケースでは4月から6月の給与で決められた保険料は通常の時期の給与に対して負担が重くなってしまいます。
これが毎年のパターンで、前年の7月から当年の6月までの1年間の平均が、この4月から6月の平均よりも2等級以上差がある場合には「年間平均を使いたい」と申し出ることで負担を軽くできることもあります。
この方法は先ほどご説明した「標準報酬月額を下げるデメリット」にもつながるため、会社が勝手にするわけにはいかず、社員の同意が必要になります。気になるときは会社に問い合わせてみましょう。会社はだいたい7月までに4月~6月の給与をまとめて届け出る準備を終えますので(締切が7月10日なので)、新年度に入って早い段階で確認しておくとよいでしょう。
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