さまよう彼女たち

コロナが奪ったつながり 独りで抱えた摂食障害

産経ニュース
摂食障害当事者のグループラインを読み返す大門友穂さん。励まされることもあるという=神戸市(一部画像処理しています)
摂食障害当事者のグループラインを読み返す大門友穂さん。励まされることもあるという=神戸市(一部画像処理しています)

極端に食事制限する「拒食症」や、過度な量の食事摂取「過食症」で知られる摂食障害。10~20代の発症が多く、国内の患者は少なくとも約21万人で、9割が女性とされる。「ダイエットの延長」「ただの大食い」などと誤解されがちだが、極度の栄養不足や低カリウム血症などの合併症や自殺により、患者の約1割が死亡するとの推計もあり、精神疾患の中でも死亡率が高い病気だ。新型コロナウイルス禍で症状が悪化した人が多いとの調査結果もある。彼女たちを追いつめるものは、何なのか。

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「昔から『独り』が怖い。周りに人がいないと心が『わさわさ』して、食べ吐きに走ってしまう」

こう話す神戸市の大門友穂(ゆうほ)さん(30)は、過食しては吐く「過食嘔吐(おうと)」の頻度がコロナ禍で増えたように感じている。

13歳で拒食症になり、入退院を繰り返してきた。理解ある夫と暮らすが、昨年4月以降は感染防止を理由にアルバイト先の事務所への出勤が減少。症状が悪化したのは「孤独感が増したからかもしれない」と冷静に分析するが、過食の衝動は自分では抑制できない。

拒食や過食嘔吐を繰り返す人の中には、下剤や利尿薬を乱用する人も少なくないため、全身の臓器に障害が起こり得る。大門さん自身、生命の危機を感じたこともある。特効薬はなく、治療の中心は心理療法や抗鬱剤などの処方。大門さんは治療に加え、自助グループにも参加している。

コロナを機に立ち上がった当事者のグループラインでは、新たなつながりも生まれた。ビデオ会議アプリ「Zoom(ズーム)」で、地域を超えた自助グループの集まりにも加わり、「いろんな人の体験談が参考になる」と話す。

ただ、画面と対面は違う。「外出先では症状は出ないけれど、家にいると我慢できない。わざわざ出かけて人と会い、話をすることの大切さを実感します」

一方、10年以上過食嘔吐に苦しんだ堺市の介護職、美山奈緒さん(27)=仮名=は、この春卒業した大学が新型コロナの影響でオンライン授業に切り替わった昨年4月から、そうした行為がぴたりとやんだ。「大学が遠かったので、通学は片道3時間。そのストレスがなくなったのが大きかったのかな」と語る。

食べることとうまく付き合えなくなったのは、中学2年のとき。強豪の陸上部員だったが、スランプなどから「病気になれば部活をやめられる」と思い詰め、食事を断った。しかし「次第にその目的を超えて痩せることにのめり込んだ」。

高校生になると勉強や友人関係の悩みが増え、拒食が過食に転じた。スナック菓子、総菜、アイスクリーム。家族が寝静まった後、家にあるものをかき集め、大量に食べては無理に嘔吐した。自分ではコントロールできず、その後進んだ大学も休学。症状が出るたびに自己嫌悪し、絶望した。

変化のきっかけが訪れたのは6年前だ。趣味で所属する劇団の公演後にもらった差し入れを過食したときふと、「せっかく持ってきてくれたのに、もったいないな」と思った。久しぶりに吐くのをやめると翌朝、体が軽いと感じた。「忘れていた『ふつう』の体の感覚を思い出した。すごく安心感があった」。その後、少しずつ症状が緩和した。

今年は就職活動のストレスなどで少し症状が出る日もあったが、以前とは大きく違う。就職し、新生活も始まった今は、「前よりずいぶん気持ちが穏やかに、前向きになりました」と話した。

生活リズム整える工夫を

新型コロナウイルス下での外出自粛やテレワークなどの「新しい生活様式」は、摂食障害の患者にも大きな影響を及ぼした。

日本摂食障害協会(東京都)が昨年4~5月に行ったコロナの影響調査では、拒食症(神経性やせ症)で食事量が「減った」人が3割、過食症で過食が「増えた」人が7割超と、いずれも症状が悪化。過食のうち嘔吐や下剤使用などが増えた人も半数以上だった。

調査を行った明治学院大の西園マーハ文教授(精神医学)は「摂食障害の背景にあるのはダイエットだけではない。完璧を求める性格や自信のなさ、対人不安などが影響している」と指摘。コロナ禍で不安や憂鬱が強くなったことが、症状悪化につながった可能性があるとみる。一方、症状が改善した例もあり、「生活パターンの変化がプラスに働いた人は、その経験を自信にしてほしい」と話す。

摂食障害は治る可能性がある病気だ。早く治療を始めた方が回復が早いとされるが、病気の自覚がない人が多いのも特徴。急激に痩せたり、過食衝動を「コントロールできない感覚」に苦痛を感じたりする場合は摂食障害の可能性が高い。

家族が無理に食べさせようとすると逆効果になることもある。医師を交えて、治療方針や家庭内でのルールを決めることが重要だ。

西園氏によると、コロナ下では、長期間休校となった小中学生らに摂食障害が増えたとの報告もある。食事を抜いたり睡眠時間が短かったりすると鬱傾向が強まり、症状が悪化するといい、「おおまかな1日の時間割を作り、規則正しい生活を送ることを心がけてほしい」と強調した。

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