【エンタなう】
あのスティーヴン・キングも驚いた、という触れ込みのスリラー映画「ビバリウム」(公開中)は、状況が変わらない恐ろしさに震えながら早く次のページをめくりたくなる心理劇だ。舞台は、若いカップルが不動産屋に紹介された住宅地の迷宮。人間という生態を閉じ込めた飼育箱(ビバリウム)を見る視点で描かれる。
アイルランドの新鋭、ロルカン・フィネガン監督による本作は、カンヌ国際映画祭で観客を騒然とさせた。そのミニマルなビジュアルにまず、頭がクラクラさせられる。
新居を探すトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、怪しげな不動産屋から、全く同じ家が並ぶ住宅地「Yonder(ヨンダー)」を紹介される。内見を終え帰ろうとすると、不動産屋の姿はない。帰路につこうと車を走らせるが、どこまでも景色が変わらず、同じ住宅に戻ってくる。そこへ送られてきた段ボールを開けると、正体不明の赤ちゃんがいた。
どうすれば住宅地から出られるのか。何の目的で連れてこられたのか。そして、この映画の主人公はいったい誰なのか。最後まで引き付けられる。
冒頭、「カッコウの托卵(たくらん)」のシーンが出てくる。カッコウは子育てをしない。虫のえさを運んでくるオオヨシキリという鳥の巣を横取りしてしまう。これは大ヒントだが、ぎりぎり、ネタバレではないだろう。(中本裕己)