「燃えよ剣」 容赦なく敵を斬り、色恋を必死に隠す…人間味あふれた鬼の副長土方歳三 新選組の維持発展のみ考えた幕末けんか師の半生記

【司馬遼太郎をもっと知りたい】

 司馬遼太郎の『燃えよ剣』の主人公は新選組の鬼の副長、土方歳三だ。多摩の片田舎から道場仲間の近藤勇、沖田総司らと京の都に出て、芹沢鴨を局長に擁して、新選組を結成。厳しい局中法度を定め、内部粛清を繰り返しながら、新選組をまとめようとする土方だが、彼自身は出世や政治には興味がない。あるのは目の前の戦いと「誠」の旗を掲げた新選組の維持発展のみ。幕末のけんか師の半生記である。

 面白いのは、鬼の副長として容赦なく敵を斬りながら、下手な俳句を詠み、色恋を周りに知られぬよう必死に隠したりする。身分のある女を好む一方で、山南敬助や伊東甲子太郎のように知識人ぶる男を嫌う。そんな男が沖田総司にふと優しさを見せる。土方の中の複雑な人間味が、読者を飽きさせない。

 ドラマで土方を演じるにあたり、司馬本人にあいさつしたことで知られるのが、今も土方俳優として知られる栗塚旭だ。1965年、司馬原作ドラマ『新選組血風録』で抜擢(ばってき)された栗塚は放送開始前、料亭で食事中の司馬夫妻の前にひとすじ前髪を垂らした独特の扮装(ふんそう)のまま、あいさつに出向き、土方役として認められたという。

 翌年、栗塚は土方役で映画『燃えよ剣』に主演。ドラマでは端正な二枚目だったが、映画では髪も生き方もボサボサの多摩の不良青年で原作に近く、イメージの違いに驚いた。