マツダが示す中小企業のDX「スモール」を強みに変えた慧眼

※オピニオンサイト「iRONNA」に掲載された論考です。肩書などは当時のものです。

片山修(経済ジャーナリスト)

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大は、サプライチェーン(供給網)の機能停止などの混乱を引き起こし、製造業にも甚大な被害が出た。それを受けて、経済産業省は2020年5月、サプライチェーンの国内回帰を促す一方で、東南アジア各国での新たなサプライチェーンの確立を促すことを発表した。

そのカギとなるのがDX(デジタル・トランスフォーメーション)だ。サプライチェーンのDX化はもとより、エンジニアリングチェーンのDX化が必須だ。

経産省は、20年8月、「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」を立ち上げ、DX推進に向けた取り組みをスタートさせた。

世界のDX競争に置いてけぼりを食えば、日本のモノづくりはピンチに陥る。というのも、2025年以降、年間12兆円の経済損失が生じかねないという「2025年の崖」が指摘されているのだ。

つまり、日本の産業を支える自動車メーカーは、エンジニアリングチェーンとサプライチェーンのすべてをDX化し、開発、市場、工場すべてのデジタル連携を目指す必要がある。

中でも見逃せないのが電動化、自動化が、クルマの高性能化、複雑化を加速していることだ。自動車産業をめぐる事業環境が大きく変化する中で、自動車メーカーや部品メーカーは、限られた資源で、開発負荷の大幅な増加に対応することが求められている。背景には、「CASE(コネクテッド、自動化、シェアリング、電動化)」と呼ばれる100年に1度の大変革がある。

クルマの開発はこれまで、実機を試作して実験を繰り返してきた。量産型モノづくりの典型である。

ところが、クルマに求められる機能、性能の要件が変化し、対応すべき領域が拡大するなかで、このやり方を続けると、開発リードタイムは限りなく長くなり、コストは積み上がっていくばかりだ。

開発にかかる時間を短縮

実は、この問題の解決策をいち早く見い出したのがマツダである。数理モデルを用いてコンピューター上でシミュレーションし、さまざまな性能を高める「MBD(モデルベース開発)」という手法に取り組んだ。

マツダは1996年、MBDの先駆けとなる「MDI(マツダデジタルイノベーション)」をスタートした。いわば前史である。このとき、マツダはフォード傘下にあり、経営再建の真っただ中だった。

実物を作らない、シミュレーションでの技術検証は、資金力も人員も足りないマツダにとっては、文字通り苦肉の策だった。資金力も人員も足りなかったからこそ、マツダはMBDにたどりついたといえる。つまり、年間生産台数150万台の「スモールプレーヤー」であるからこそ、MBDを生み出したのだ。

マツダのMBDは、経産省内部に発足した「自動車産業におけるモデル利用のあり方に関する研究会」においても、日本の自動車産業全体の国際競争力強化に寄与していると、高く評価された。

MBDの利点は、初期工数がかかるのを覚悟の上で、図面精度の向上を徹底的に図ることにより、開発リードタイムを短縮し、これまでのように設計後の検証段階での「手戻り」の非効率が避けられることにある。各階層でモデルを駆使し、設計段階からシミュレーションを行いながら、迅速にフィードバックを行い、確かな設計仕様を完成していく仕組みだ。

ただし、その際、開発の早い段階から部品メーカーとの間ですり合わせをし、足並みをそろえて開発を進めていく必要がある。となれば、当然のことながら、部品メーカーにも完成車メーカーと同等レベルのDXへの取り組みが求められる。

問題になるのは、中小部品メーカーでDXへの取り組みが遅れていることだ。中小企業は、資金や人材が不足しているため、DXに消極的だ。

要するに、自動車サプライチェーンのDX化を進めるには、完成車メーカーと部品メーカーの二人三脚が必須だが、中小部品メーカーがDX化に二の足を踏む限り、困難がともなうわけだ。

その点、マツダには強みがある。いや、弱みを強みへ転換することに成功したのだ。

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