マイナンバー口座ひも付け、ゼロリスクでなくとも「無理筋」ではない - イザ!

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マイナンバー口座ひも付け、ゼロリスクでなくとも「無理筋」ではない

※オピニオンサイト「iRONNA」に掲載された論考です。肩書などは当時のものです。

影島広泰(弁護士)

政府は11月27日、マイナンバーと銀行口座のひも付けの義務化を見送ると公表した。このひも付けについては、さまざまな制度が入り交じって議論されてしまっているため、整理したい。

まず、金融機関において銀行口座とマイナンバーをひも付けして管理することは既に行われている。マイナンバー法により2016年1月から、銀行における国外送金、FXなどの先物取引、証券会社で特定口座やNISA口座の開設する、といったときに、マイナンバーを金融機関に対して告知する義務があると定められている。

これに対して銀行口座については、個人預金の口座数が10億を上回るともいわれており、金融機関の事務処理の負担などを考慮してマイナンバーとのひも付けは見送られた。

しかし、2018年に国税通則法が改正され、金融機関は預貯金者の氏名(法人であれば名称)や住所などの情報をマイナンバーとひも付けて管理することが義務付けられた。これを「預貯金口座付番」という。

つまり、現時点で既に、金融機関側はシステム改修などを終えて、銀行口座をマイナンバーとひも付けして管理できる体制を整えている。われわれは銀行で預貯金口座を開設する際には、マイナンバーの告知を求められるようになっているのである。このマイナンバーは、(1)税務調査、(2)社会保障の資力調査、(3)金融機関破綻の際のペイオフの名寄せのために利用することができると定められている。

もっとも、この18年の改正は、金融機関にマイナンバーとひも付けして管理することを義務付けたものの、個人に対してはマイナンバーを金融機関に告知することを義務付けなかった。預貯金口座を開設する際に金融機関からマイナンバーの告知を求められても、拒否することは可能なのである。

ただし、改正の附則においては、「付番開始後3年を目途に、預貯金口座に対する付番状況等を踏まえて、必要と認められるときは、預貯金口座への付番促進のための所要の措置を講じる」旨が定められた。これを踏まえて議論されているのが、マイナンバーと銀行口座のひも付けの義務化である。

国民が政府を「監視」

今回の議論は、新型コロナウイルス禍における現金給付の手続きが煩雑だった反省から突然議論されるようになったものではなく、18年に国税通則法が改正された際、3年後に見直すと定めたことを受け、予定通り21年の改正法で告知を義務付けるかを議論していたものである。つまり、預貯金口座付番の議論と、新型コロナの経済対策をきっかけにした議論は別のものだ。

ここでは、マイナンバー制度における「分散管理」の仕組みを理解する必要がある。マイナンバー制度においては、どこかのサーバーで情報が一元的に蓄積されているのではない。それだとプライバシー侵害のリスクが高くなるし、情報漏えいしたときのダメージも大きいからだ。

マイナンバー制度では、以前からと同じように、国税庁は国税の情報を、市区町村は地方税の情報を、ハローワークは就労状況を、健康保険組合は健康保険の情報をそれぞれ保有するといった分散管理を維持しつつ、他の機関に対して問い合わせができる仕組みになっている。収入が少ないから国民年金保険料を免除してほしい旨をマイナンバー付きで年金事務所に申請すると、年金事務所が市区町村に収入の情報を問い合わせたり、ハローワークに就労状況を問い合わせたりすることができるようになるわけだ。

そのためには、全ての役所で共通の番号を定めたほうが効率がよい。こうして生まれたのが「共通番号」といわれるマイナンバーなのである。

したがって、預貯金口座付番により金融機関がわれわれのマイナンバーと銀行口座をひも付けして管理できているからといって、国がその情報をそのまま利用できるわけではない。例えば税務調査の際に、国税庁が「マイナンバー○○番の者の預金者の情報を回答してくれ」と要求し、金融機関がそれに応えて預金者の情報を回答するという関係にすぎない。

政府が給付金を振り込むための口座を把握するためには、改めて本人から「この口座に振り込んでほしい」という情報を政府に登録してもらう必要がある。今般、この登録の義務化も見送ると決定されたということである。

マイナンバーと銀行口座のひも付けについては、プライバシー侵害を懸念する声があり、義務化を見送ることになったともいわれている。国民が納得するためには、政府による真摯(しんし)な説明が求められているのではないだろうか。

そもそも、マイナンバー制度が発足したきっかけは、07年に発覚した約5千万件の年金記録が誰のものかが分からなくなった「消えた年金記録」問題だ。氏名や住所だけで登録されている年金記録は、結婚や引っ越しで追跡が困難になり、われわれが支払った年金の記録が存在しない状態になってしまっていたのである。そのため、政府は数千億円をかけて情報を突合(とつごう)したものの、結局、突合できない記録は残ってしまっているといわれている。

そのほかにも、情報がバラバラに存在している結果、富裕層の税金逃れや、生活保護などの不正受給、生活保護を必要とする状況を役所が確認できず保護を断られるケースが発生するなどの懸念もある。

今後、少子高齢化が進めば税収の伸びを期待することは難しく、行政コストの削減が待ったなしとなる。税の公平な負担と社会保障の適正な給付も重要性が増す。その切り札として、個人の特定に役立ち、全ての役所で共通する番号であるマイナンバーを導入したのである。

プライバシーの保護を担保する制度としてマイナポータルという政府が開設しているサイトでは、行政機関の間で自分の情報がやりとりされた履歴が閲覧できるようになっている。われわれが政府の情報のやりとりを監視できるシステムが構築されているのである。

もちろん、このようなシステムがあっても情報の不正な取り扱いをすべて防げるわけではないだろう。マイナンバーとひも付けされることにより、情報漏えいが発生したときのプライバシー侵害のリスクも高まる。だからこそ、リスクと導入の目的と効果を政府がきちんと説明し、社会の理解を進める努力をする必要があるのではないか。

例えば、預貯金口座付番は、税務調査や社会保障の資力調査を受けた際に金融機関側で利用されるものだから、税や社会保障の不正を許さないためという目的について説明を尽くすべきであろう。既にFXや証券などの口座については義務化されているのだから、目的と仕組みを説明すれば、義務化することについても比較的理解を得られやすいだろう。

他方、給付金の受取口座を政府に届け出ることは、政府に直接口座番号を知らせることになる点においてプライバシー侵害のリスクが異なる。その主な目的も、税や社会保障の不正防止ではなく行政のコストの削減にある点で、預貯金口座付番とは事情が違う。

これについては、今年の新型コロナ感染症の特別定額給付金を支払う際にかかったコストと、マイナンバーと銀行口座をひも付けできた場合に予想されるコスト削減効果などを定量的に開示したうえで、早く給付金を受け取りたい人だけが任意で行うのか義務化すべきなのかを議論をしていく必要があるのではないだろうか。

現時点でマイナンバーがどのように使われており、変更するとどのような効果があるのかを、メリット・デメリットを含めて丁寧に説明することが求められているように思われる。

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