【トラとら虎】
阪神の藤浪晋太郎投手(26)は10月19日のヤクルト戦(甲子園)で球団史上最速の162キロをマークした。中継ぎで登板した7回、松本友に投じた1球である。
日本人投手ではエンゼルスの大谷が日本ハム時代の2016年にマークした歴代最速の165キロに次ぐもので、関西のスポーツ紙は一面トップで仰々しく報じるほどだった。
実はこの記録、皮肉にもコロナ禍が生んだといえる。阪神では9月25日に糸原、岩貞、陽川ら5選手の新型コロナウイルスへの感染が判明。彼らと外食を共にした5選手の計10人が出場選手登録を抹消された。この補充のため2軍から急きょ呼ばれたひとりが藤浪というわけだ。
「かといって力不足で先発では使えない。短いイニングの中継ぎで様子を見ようとなった。これならプレッシャーもなく、リラックスして投げられる。そのうえペース配分を考えなくていいことが今回の記録につながった」と球団OBは見ている。
もっとも過去に160キロは何度か出してきた投手である。しかし、今季の先発で1勝5敗、防御率5・87の不成績が示すように、速球は宝の持ち腐れだった。近年は何度も制球に苦しみ、フォームに迷うシーズンの繰り返し。現に162キロを出したあとも藤浪は「重心を落とし、プレートを蹴るイメージで投げるタイミングがよかった」と、たまたまであることを隠さなかった。
先のOBはこうも話す。
「巨人の菅野や阪神の西勇を見れば分かるように、先発で勝てる投手になるのに160キロの球はいらない。もちろん、それよりストライクゾーンの4角に的確に投げ分けるコントロールが不可欠だ。そのためには彼もまずフォームを安定させなきゃならない」
目下、中継ぎで8戦連続無失点の藤浪だが、話題の162キロも復活の保証にはとてもなりそうにないのである。 (スポーツライター・西本忠成)