マスク着用に続く「義務化」の訴えには、国民の保護に役立つなら、政府は国民生活への介入をためらうべきではない-という考え方が表れている。振り返れば、マスク着用の義務化はバイデン氏がハリス氏を副大統領候補に指名した後、2人そろって発表した最初の公約だった。
非常時に政府が力を発揮することを好む姿勢は、バイデン政権の特徴となりそうだ。それは基本的な性格であるために、ほかの政策にも反映されていくことが予想される。
「米国第一」は続く
政府介入を好むバイデン氏の傾向は、マスク着用論議にとどまらない。
例えば、9月に発表された政権公約「メード・イン・アメリカ税制」。海外で生産された品物の米国内での収益に追加課税する一方、米国内で生産する企業は工場再開や雇用の積み増しなどを対象に税控除で優遇する。また、米企業の海外子会社に対する税控除を縮小し、米国内への回帰を促すという政策だ。
選挙戦略上は、前回2016年の大統領選でトランプ氏に劇的な勝利をもたらした中西部の白人労働者の雇用を守り、集票につなげる狙いがある。思想的には、労働者を守るという大義のためなら、企業の自由な経済活動を阻害してでも、政府の徴税権を行使する-というバイデン氏の考え方を反映したものだ。
バイデン氏は、対外政策の構想を示した米外交専門誌『フォーリン・アフェアーズ』(3、4月号)への寄稿でも、「われわれの通商政策は労働者を強化することによって始まる」と述べ、「国民に投資し世界経済で成功する力が備わるまで、新たな貿易協定には加盟しない」と明記していた。
こうした動きを受けて、エコノミストは、バイデン政権が誕生した場合も、しばしば中国を筆頭に貿易相手国への関税引き上げに踏み込んだトランプ政権と同等かそれ以上の「保護主義」が続くのではないかと警鐘を鳴らす。
「個人の自由」と「政府介入」のあり方をめぐって、共和党と民主党の考え方には根本的な違いがあることが鮮明になっているにもかかわらず、通商政策での「米国第一」は党派を超えて共有されようとしている。それもまた、今回の大統領選を通じてはっきりしてきたことだ。
(外信部 平田雄介)