《東京・池袋で昨年4月、乗用車が暴走して母子が死亡し、10人が重軽傷を負った事故で、自動車運転処罰法違反(過失致死傷)の罪に問われた旧通産省工業技術院の元院長、飯塚幸三被告(89)の初公判が8日、東京地裁で始まった》
《事故は昨年4月19日昼に発生。飯塚被告が運転する乗用車が赤信号を無視するなどして暴走、横断歩道の歩行者らを続々とはねた。近所の松永真菜(まな)さん=当時(31)=と長女の莉子(りこ)ちゃん=同(3)=が死亡、男女8人と同乗の飯塚被告の妻がけがをした》
《事故当時、乗用車は時速96キロまで加速していたとされる。警視庁はブレーキとアクセルの踏み間違いが原因と結論付け、昨年11月に飯塚元院長を自動車運転処罰法違反(過失致死傷)容疑で書類送検。東京地検が今年2月に在宅起訴した》
《妻の松永さんと莉子ちゃんを失った夫の拓也さん(34)ら遺族は、事故後「事故の犠牲者を減らしたい」との思いから、交通事故をなくすための活動を続けている。飯塚被告に厳罰を求める署名活動を始めると、約2カ月で約39万筆が集まり、東京地検に提出した。公判には被害者参加制度を使って出廷する》
《この事故以外にも、高齢ドライバーによる事故が相次ぎ、運転免許証を自主返納する高齢者が急増。高齢者の免許制度を見直す法改正の道筋も示され、高齢ドライバー対策は大きな転換点を迎えるきっかけとなった》
《また事故後、飯塚被告が逮捕されていないことに対し、インターネット上で疑問の声が噴出。元官僚という社会的な地位から「上級国民」などと批判された》
《この日は朝から20席の一般傍聴席に対し、414人の傍聴希望者が地裁に集まった。飯塚被告は昨年6月に行われた警視庁の実況見分に立ち会った以外、公の場に姿を見せておらず、法廷で事故についてどう説明するのか、注目が集まっている》
《午前10時。スーツ姿の飯塚被告が車いすに座って入廷した。車いすは介添えの男性が押しており、飯塚被告は視線を落としたまま背中を丸めている。裁判長の合図でいよいよ開廷する》
裁判官「被告人は証言台の前に移動してもらえますか」
《男性が立ち上がり、飯塚被告の車いすを押す。飯塚被告はうつむいている》
裁判長「名前をなんと…」
飯塚被告「飯塚幸三です」
《緊張しているのか、飯塚被告は裁判長の言葉の途中で名前を答えた。人定質問が終わると、裁判長に促され、再び弁護側の席に戻った。次に検察官が起訴状を朗読する。8人の負傷者の中には、当時2歳の女児や90歳の高齢者もおり、1年の加療を要した被害者もいた》