肉道場入門! 絶品必食編
ときどき、家庭用の焼肉専用機を比較・検証する雑誌などの仕事を引き受けることがある。
しかしこの数年、実験する前から結果が見えていることが多い。
それほど岩谷産業の「スモークレス焼肉グリルやきまる」がよくできているのだ。
よく比較検証の対象となるのは、「煙が出ない」と言われる輻射(ふくしゃ)熱型の焼肉グリルやホットプレートだ。
前者には「ザイグル」や「アラジン」といった商品がある。上部に据えつけられた赤外線ヒーターで下部のプレートを熱して、肉を焼く。
確かに煙は出ないが、焼き目もつかない。新モデルではかなりの改善が見られたものの焼肉の味わいにおける最重要点とも言えるメイラード反応(アミノ酸と糖による褐変反応)の風味はまだ物足りない。
一方、ホットプレートはプレート下部に埋め込まれた電熱線でプレートを温めるが、こちらも熱ムラや火力不足が目立つ。しかも肉の脂がプレート上にとどまり、油で煮るような状態になってしまうものも多かった。
最近では波型のプレートの採用など改善が進んだ面もあるが、それでも新しいアイテムは「やきまる」に敵わない。
いったい何が違うのか。
〔1〕プレート上が、焼き目がつく210~250℃にコントロールされる。この温度設定にするため、火力や内部構造に工夫がなされていて、細かい火加減の調整をしなくてもいい。
〔2〕火力の立ち上がりが早い。焼肉がおいしく焼くことができる210℃まで着火から約3分で到達する。
〔3〕煙がほぼ出ない。油はプレート上のスリットから下の水受け皿に落ちるため炎上もしない。焼き続けると水蒸気や少しの煙が出ることはあるが、その程度の火力がないと肉はおいしくならない。
しかもプレート上全面が肉を焼くための適温となるので、焼き加減をめぐる無用な争いのリスクも低減できる。
近年ではスリット入り鉄板内部に電熱線を埋め込んだグリルも登場し、ますます群雄割拠の様相を呈する、家庭用焼肉専用機。だが、いまのところ王の行く手を阻む者は見当たらない。
■松浦達也(まつうら・たつや)
編集者/ライター。レシピから外食まで肉事情に詳しく、専門誌での執筆やテレビなどで活躍。「東京最高のレストラン」(ぴあ刊)審査員。