その後も互いの活躍が刺激になった。三上は2019年7月の世界選手権(韓国)女子3メートル板飛び込みで5位に入り、入江より先に東京五輪代表に内定した。
入江「三上フィーバーが起こっていたので(インスタグラムで)メッセージを送った」
三上「うれしかったし、聖奈もこの後、東京五輪の代表を決める試合があると聞いていた。絶対に一緒に東京五輪に行きたいと思って『一緒に行こう』って送りました」
今年3月の東京五輪ボクシングアジア・オセアニア予選(ヨルダン)。入江は女子フェザー級で銀メダルを獲得し、東京五輪代表に内定した。
三上「あと1試合勝てば内定が決まる準々決勝の前に『頑張って』と連絡を入れた」
入江「同じ中学から(五輪代表が)2人出るのはめったにないこと。しかも同級生。このチャンスをものにしたいなと。力をもらった」
東京五輪へ突き進んでいた3月、コロナ禍で東京五輪の1年延期が決定。受け止め方は違った。
入江「(延期が)決まった直後は緊張の糸が緩んだけど、『1年で強くなれるね』というコーチの言葉でもっと強くなろうと(気持ちが)引き締まった。やっぱ純粋にボクシングが強くなりたいしうまくなりたい。下手になっている自分を受け入れられない。ミット打ちや体幹トレーニングで土台を固める日々だった」
三上「最初は1年間で強くなるぞ、という気持ちで取り組んでいたけど、思った以上に休暇期間が長かった。モチベーションの維持が大変だった。合宿だったら常に1人なので、自分のことは自分で管理しなきゃいけないし、1人でやらなきゃいけないことがたくさんあるけど米子に帰ると親もいるし、友達もいるし。生活の面で緩んでいたかな」
気持ちを切り替えられない三上を救ったのが、入江だった。6月中旬、米子市で三上が入江のジムを訪れた。
入江「いろんな流れで一緒にボクシングしてみない? って(LINEで)メッセージを送ったら、三上さんがけっこう乗り気で。絶対、来ないだろうなって思ってたから、こっちがびっくりしちゃうくらいだった」
三上「(外出自粛期間が明けた)6月上旬から飛び始めたけど、(自粛前とは)感覚が変わってしまっていて。東京五輪に向けて積み上げてきたものが全部崩れたような感じがして不安だった。(連絡が来たのは)気持ちが下がっていたときだった」
ジムでは、普段は明るく周囲を笑わせるキャラクターの入江が、鋭い目つきでスパーリングに取り組んでいた。不安に押しつぶされそうだった三上の気持ちにスイッチが入った。
三上「他の競技をすることでスポーツって楽しいと思い出せた。初めて(入江が)競技をしている姿を生で見て、すごく真剣でかっこよかった。自分も頑張らなきゃという気持ちになった」
入江「落ち込んでいるようには見えなかった。強がっていたのかな? 察してあげられなかった…。でも(いいタイミングで連絡ができて)よかった」
次は入江が飛び込みを経験する番では?
入江「実はやったの。7月の終わりの富山合宿で。水泳のトレーニングがあって、そこに飛び込み台があったのでやるしかない、三上さんのすごさを体験するしかないと。3メートル台に立ったけどめちゃくちゃ高くて。遊びの気持ちで10メートルに行ったら足がすくんじゃって。よくあんな高いところから回転してできるなって。3メートルからはただ落下した感じで。かっこよさはみじんもなくて、ほんと三上さんすごいなと改めて思った」