自民党の菅義偉総裁(71、無派閥)が16日、首相就任後に発足させる内閣の陣容が固まった。手堅い顔ぶれだが、官房長官に加藤勝信厚労相(64、竹下派)を充て、防衛相には安倍晋三首相の実弟である岸信夫元外務副大臣(61、細田派)を初入閣させる。菅氏肝煎りの行政改革・規制改革担当相には河野太郎防衛相(57、麻生派)を、法相には上川陽子氏(67、岸田派)を再登板させるなど、「意図」を感じさせる布陣となった。
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「思い切って、私の政策に合う人を登用する」
菅氏は総裁選で圧勝した後、人事について、こう語っていた。
まず、自身の後任である官房長官には、加藤氏を起用した。2012年の第2次安倍内閣の発足後、約2年10カ月間、官房副長官として、菅氏の下で働いた「安定感」が買われた。
政治評論家の伊藤達美氏は「菅氏と同じく『華』こそないが、答弁能力が高い。同じ竹下派の茂木敏充外相(64)や、総務相になる武田良太氏(52、二階派)と同様、『将来の派閥トップ』『首相候補』として育てたいとの思いがあるようだ」と語る。
防衛省を率いる岸氏は、外務副大臣や衆院安全保障委員長などを歴任するなど、外交・防衛に強い。加えて、超党派の議員連盟「日華議員懇談会」(日華懇)の幹事長として先月、台湾の李登輝元総統を弔問し、蔡英文総統にも面会していた。
伊藤氏は「米中対立が深まるなか、中国に変にゴマすりはせず、言うべきことは言う岸氏を選んだ。その方が逆に信頼される。その意味でも、実にバランスの取れた人事だ」と評価した。
国民的人気の高い河野氏は当初、防衛相留任や官房長官起用も指摘されたが、菅政権の目玉「行革・規制改革」を担当する。自民党の行政改革推進本部長を務めるなど、党内きっての「改革派」で知られる。
評論家の八幡和郎氏は「切り込みが鋭く、最適だ。行革・規制改革担当相は勇気のある人物でなければできない。菅氏が本気で改革の成果を挙げるとの意気込みを反映した人事だ」と分析する。
上川氏は14、17年に続き3度目の法相登板だ。
今年7月に検察トップの検事総長になった林真琴氏が2年前、法務省刑事局長から名古屋高検検事長に転出したのは、当時の上川法相の強い意向があったともいわれる。
八幡氏は「2人の間にそうしたいきさつはあったにせよ、菅氏は、よく法務省の内情を知る上川氏の経験値を買ったのだろう。失敗をせず、仕事をする人を選んだ」と語っている。