「台湾民主化の父」と呼ばれた李登輝元総統が97歳で死去した。外省人(中国大陸出身者)の支配が長く続いた台湾で、本省人(台湾出身者)として初の総統になった李氏は民主化を強力に推進。本省人主導の政治を目指す台湾本土化(台湾化)路線をとり、中国と一線を画した台湾人意識を根付かせた。台湾紙は、今日の礎を築いた李氏を称賛して追悼。中国紙は李氏を「中華民族の罪人」などと痛罵した。
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■台湾 流血なき民主革命を実現
7月31日付の台湾大手紙、蘋果(ひんか)日報は社説で、前日夜に死去した台湾の元総統、李登輝氏について「政治家」「哲学者」「宗教家」の3つの顔を持つ「類いまれなリーダーだ」と総括し、「台湾に民主主義を残したことは彼の最大の業績だ」と高く評価した。
同社説は、前任者の蒋経国の死去を受けて急遽(きゅうきょ)、総統に就いた李氏の政権が、当初はきわめて不安定だったことに言及。その上で「権威主義時代に頭角を現した李氏自身にも、強権政治家の側面があった。彼にとって民主主義は自らの理念であると同時に、政敵と闘争する際の武器でもあった」と指摘した。
民主化を求める民意を背景に政敵を失脚させ、憲法改正によって立法委員(国会議員に相当)の全面改選や総統の直接選挙を実現した手腕が念頭に置かれている。
「李氏には、同世代の政治家にない高い見識と行動力があり、彼の選択が結局、台湾を正しい方向に導いた」。こう述べる同紙は、李氏が台湾で成功させた民主化は「民主主義が欧米など西側社会のみならず、華人社会でも十分実現可能であることを証明した」とし、「中国大陸の人々も李氏に感謝し、敬意を払うべきだ」と主張した。
別の台湾大手紙、自由時報の社説は、李氏が推進した台湾本土化(台湾化)路線を詳しく振り返った。李氏が総統だった当時、日本人作家、司馬遼太郎との対談で「台湾人に生まれた悲哀」について語ったことを紹介。さまざまな外来政権によって支配されてきた台湾人は長年、自分で自分の運命を決められなかったが、「李氏は生涯をかけてそれを変えた」と評した。