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長男との二人三脚で焼酎造りの伝統を支えてきた渕田勝子さん(93)は、熊本県球磨(くま)村の特別養護老人ホーム「千寿園」で命を落とした。濁流は酒蔵兼自宅を飲み込み、長男の嘉助(かすけ)さん(72)も被災。酒蔵の復旧はまだ見通しが立たないが、嘉助さんは「被災前までの状態に戻したい」と力を込める。(橘川玲奈)
人吉・球磨地域特産の「球磨焼酎」の蔵元の一つ、渕田酒造本店。球磨川にほど近い球磨村一勝地(いっしょうち)地区で、江戸時代末期から球磨焼酎を造ってきた。生産する「園乃泉(そののいずみ)」や「一勝地」は伝統製法にこだわり、今も酒蔵の石室でこうじから作っている。
夫を早くに亡くした勝子さんは40代のころから四半世紀、代表として蔵を守ってきた。「厳しいことがあっても、母は嫌な顔をしない。辛抱強く、経営に向いていた」と、嘉助さんは振り返る。嘉助さんに後を譲ってからも、勝子さんは経理の仕事などを担ったが、加齢に伴い足腰が弱り6年前、自宅から車で8分ほどの千寿園に移った。嘉助さんが訪ねると、勝子さんはいつも蔵のことを気にかけていたという。