「Be Water」国安法強行の最前線で闘志を燃やす香港の若者たちへ

デモ参加者を拘束する香港の警察=2020年1月5日、香港の上水(筆者提供)
デモ参加者を拘束する香港の警察=2020年1月5日、香港の上水(筆者提供)

7月6日には、再びショッキングな報道があった。この日の香港の法廷で、昨年8月30日に逮捕されていた周が、違法集会を扇動した罪を認めたというのである。

逮捕容疑である昨年6月21日夜の警察本部包囲デモの現場には私も居合わせた。テレグラムで呼びかけられたデモであり、周と黄たちはかなり遅れて現場に到着した。デモの参加者にすぎなかったが、マイクを握って名乗り、抗議者たちに呼びかけたのが彼女たちだけだったというのが事実である。扇動というにはほど遠い。

「同じ容疑で逮捕された黄は否認しています。罪状を認めた彼女は現在まで3回逮捕されているが、今まで有罪になったことはない。弁護士との話し合いで、今回の罪状を認めることで、判決での減刑を考慮したのでしょう。ただ、現在の香港の司法は政府の意向をくんだ判決が多く、実刑となる可能性も高いと思います」(香港人ジャーナリスト)

2014年の香港民主化運動「雨傘運動」では周と黄たちは主導的な立場だった。しかし、昨年のデモでは前述の通り、一参加者という立場でしかなかった。昨年8月の逮捕は、リーダーなき抗議デモの中で、中国政府へのポーズとしての見せしめ的な逮捕だったと言われている。国安法施行後、既に司法の独立が保たれていないとみられる香港において、周は真っ先にその矛先を向けられる可能性があったのだ。やむを得ない決断だった。

Be Water(水になれ)

6月30日以降、周は日本メディアとの接触を避けている。国安法の「外国勢力との結託」とみなされないように努めていたのだ。公判のあと、周は久々にマスコミの前に立った。

「香港人は民主と自由の信念を勝ち取れるように、これからも頑張ってほしい」

言葉を選びながら、それでも彼女は毅然(きぜん)とした態度で呼びかけていた。

6章66条からなる国安法は、一夜にして香港の自由を破壊した。同時にそれは、香港から中国が受けていた利益まで奪っていったという。香港のバンカーに聞いた。

「現在、一時下がっていた株価が戻っています。これは、政府が買い支えているのでしょう。地価は下がっているのに、株価が動かないのはありえない。市場関係者はいずれ株が暴落するとみて備えています。また、今後、香港は貿易などでの関税の優遇措置がなくなります。香港を経由させることで得られていた、さまざまな中国企業の利益まで失うことになったのです。経済的には、香港はかつての繁栄は望めなくなりました」

7月14日にはトランプ米大統領が制裁措置を実行した。これまで香港に与えていた税制などのさまざまな優遇措置を廃止する大統領令に署名したのだ。また、同時に香港の自治侵害に対しての対抗措置である「香港自治法」にも署名した。今後、中国高官などの米国での資産凍結や入国制限などが可能となる。こうした米国の動きに対して、中国政府も対抗する姿勢を見せている。

国安法と米国の制裁。どちらも香港にとっては、未曾有(みぞう)の危機かと思われるが、実は香港市民は覚悟していたことでもある。デモ隊が中国政府に向けて繰り返しアピールしていた「攬炒」(ラムチャオ)という言葉の意味は「お互いに焼かれる」、つまり「死なばもろとも」である。デモ隊は香港という街自体を人質にとる覚悟で、中国政府とやりあっていたのだ。そして、それはついに現実となった。今後、米国をはじめ世界からの経済制裁で、中国自身も香港とともに焼かれるのである。

制裁措置をめぐる米国との関係は米中冷戦とまで言われているが、香港がその最前線になっているのだ。自由を奪われて、経済まで失う香港。そこに生きる人たちは、現在、どう考えているのか。昨年知り合った香港の若者に聞いたところ、意外な答えが返ってきた。

「株なんて私には関係ないし、地価が下がって、世界一高いと言われている香港の家賃が下がるなら大歓迎です。お金のない香港に中国人たちも来ないでしょう。香港人は、いままでもいろんな形で抗議を続けてきた。これから新しい方法を考えつくのではないでしょうか。日本人が考えているより、香港人はしたたかですよ」

民主派団体が解散し、国外に脱出する人が続出し、一部の勇武派は地下活動に移行し、言論や報道の自由さえなくなりつつある香港で、彼は新たな方法が生み出されるはずだと楽観的だった。

「文字がない白紙を掲げたデモや、沈黙のままのデモなど、抗議の意志を示す方法はいくらでもあります。それに、日本を含めて世界が香港を応援してくれています。私たちがあきらめる必要はまったくありません」

昨年は新しい抗議活動の形を生み出した香港の若者たち。この先、中国政府が考えもしない抗議活動が生まれ出てくるのだろう。

Be Water(水になれ)。昨年のデモの初期、香港のネットを中心に語られていたブルース・リーの言葉だ。香港人たちは初心に帰って、形にとらわれない新たな闘いを始めるようだ。(文中敬称略)

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