【がんを死滅させる「第2のメス」の実力】
針を刺してがんを死滅させるのが、「穿刺(せんし)局所療法」。肝がんで手術不適応の人や、再発・転移がんにも行える第2のメスとして、盛んに行われるようになっている。そのひとつとして、2017年に「次世代マイクロ波凝固療法(MWA)」が保険適用になった。肝がんに直径約1・8ミリの電極を刺し、電子レンジと同じ周波数のマイクロ波を流すと、がん細胞内の水分子が振動して摩擦熱が生じることで、がん細胞を死滅させる治療法だ。
「MWAの前身は20世紀末に登場しましたが、当時の医療機器は使いづらく治療法として広まりませんでした。今世紀に入ってMWAの医療機器が新たな開発され、現在、諸外国ではMWAが主流になっています」
こう説明するのは、東京医科大学臨床医学系消化器内科学分野の杉本勝俊准教授。穿刺局所療法を得意とし、昨年7月に先進医療制度で承認された「ナノナイフ治療(IRE)」による新たな治療法の研究も行っている。
日本では、2004年に保険適用された「ラジオ波焼灼療法(RFA)」の方が、MWAよりも主流の印象がある。RFAは、MWAとは異なり、AMラジオと同じ周波数の電流によって、肝がんを焼いて死滅させることは前回紹介した。患部に局所麻酔で針を刺し、熱を発生させてがんを死滅させるのは、MWAもRFAも同じ。どこが違うのか。
「RFAと比べて、MWAは短時間、1回の穿刺でほぼ球形かつ広範囲に治療ができるのが利点です」
RFAは太い血管の近くでは、血流に熱が奪われて温度が上がりにくいという欠点がある。一方、MWAはRFAよりもその影響を受けにくく、予定された範囲の治療が行いやすいという。だが、MWAの方がRFAと比べ、針が太く超音波画像で針の先端が見にくいといったデメリットもある。どちらの治療にも一長一短があり、どちらがより有用かを評価するランダム化比較試験が、東京医科大学病院消化器内科を中心に現在進行中である。
「使い分けをすることで、手術不適応の小さながんに対し、RFAとMWAはどちらも武器になります。ただし、胆管や太い血管の合流部(肝門部)は、胆管が熱に弱いのでRFAやMWAは不向きです。その欠点をカバーするために、ナノナイフ治療(IRE)が役立つと思っています」
IREは昨年7月、先進医療制度の承認を受け、東京医科大学病院が保険適用に向けた臨床試験をスタートした。全身麻酔でがん周辺に針を2~6本刺し、高電圧電流によってがん細胞にナノ(10万分の1ミリ)の穴を開けて死滅させる。
「がんを死滅させる方法が異なるため、IREは免疫領域の治療法との併用で新たな治療法につながる可能性があるのです」
IREと免疫の話は次回紹介する。(安達純子)
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■肝がんの「第2のメス」違い ラジオ波焼灼療法とマイクロ波凝固療法は、どちらも熱によって肝がんを死滅させる。マイクロ波の方が短時間に、球形かつ広範囲、太い血管の近くでも熱が下がりにくいなど、ラジオ波焼灼療法のデメリットを補っている。一方、ナノナイフ治療は、高圧のパルス電流を用いてがん細胞に目に見えない小さな穴を開け死滅させる。熱はほとんど発生しないので胆管近くでも治療を行いやすい。ナノナイフ治療は保険適用に向けた研究が進行中だ。