【がんを死滅させる「第2のメス」の実力】
針を刺して高圧電流でがんを死滅させる「ナノナイフ治療」が、昨年7月、肝がんに対する先進医療として認められた。ナノナイフ治療は穿刺(せんし)局所療法と呼ばれ、他にもラジオ波焼灼療法、マイクロ波凝固療法、凍結療法がある。これらは言わば針による第2のメスの治療法だ。その実力とはいかなるものか。専門医に話を聞く。
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ナノナイフ治療(以下=IRE)は、直径1・1ミリ、長さ15センチの細い針を2~6本、肝がんを囲むように刺す。そこに3000ボルトの高電圧電流を1万分の1秒流すことで、がん細胞にナノメートル(10万分の1ミリ)の穴を開け、死滅させる。「がん細胞にナノメートルの穴を開けるナイフ」がIREの名称の由来だ。
「IREは、当院で2014年に初めて肝がんに行ってから臨床試験を重ねてきました。すでに肝がんで保険適用されているラジオ波焼灼療法とは異なる仕組みなので、新たな展開が期待できると思っています」
こう話すのは、東京医科大学臨床医学系消化器内科学分野の杉本勝俊准教授。先進医療の肝がんに対するIREの臨床研究を進めている。
ラジオ波焼灼療法(RFA)は、直径1・18ミリの電極針を肝がんに刺し、AMラジオと同じような周波数の約450キロヘルツの電流を流す。針の周辺に熱が発生して肝がんを焼いて死滅させる仕組みだ。日本では2004年に肝がん治療のひとつとして保険適用された。「3センチ以下」「3個以下」など、がんは小さいけれども肝硬変などで手術が難しい場合に、RFAは第2のメスとして威力を発揮している。
局所麻酔で何度も繰り返し治療を行える上に、肝がんの再発、大腸がんなどからの肝臓転移がんに対しても行えるのが利点。さまざまな医療機関で数多く実施されている。
「IREは治療の際、患部に熱はほとんど発生しません。一方、RFAは治療の際に高周波で100度程度の熱を発生させて、ジワジワと肝がんを焼いて凝固壊死させます。2つは同じように針を刺して治療しますが、がん細胞を死滅させる仕組みが違うのです」
すでに保険診療として実績を持つRFAだが、欠点があるという。肝臓には、血液を供給する門脈と肝動脈という2つの太い血管がある。その近くにある肝がんに対してRFAを行うと、太い血管を流れる血液によって熱が奪われ、100度まで温度が上がらないといったことが起こる。この現象は「ヒート・シンク効果」と呼ばれる。
「IREは、熱を発しないので太い血管の近くのがんに対しても、ヒート・シンク効果は起こりません。治療を行いやすいというメリットがあります」
RFAの欠点を補ったマイクロ波凝固療法(MWA)も、肝がんに対して2017年に保険適用になっている。肝がんでは第2のメスが花盛だ。MWAについては次回紹介する。(安達純子)