新型コロナウイルスの感染対策で、政府などが在宅勤務の推奨が始まってから1カ月以上が経過し、在宅勤務などのテレワークをする上での課題も見え始めている。対面とは異なるコミュニケーションへの対応や、社員教育などで、もともとテレワークに向かないとされる業界からは戸惑いの声も聞こえる。準備が不十分だったことで生じている課題も多い。現場の声を拾った。
「業務の効率化や、通勤時間を有効活用できるなどメリットも多いが、やはり課題も見えてきた」
広告大手の電通の担当者はそう語る。同社は2月25日に男性従業員の感染が確認された翌日から、東京都港区の本社ビルで働く全従業員約5000人を対象に在宅勤務を始めており、現在も原則在宅勤務を継続中だ。
ただ、WEB会議などは数人ならいいが、10人を超えると発言者の声が重なって聞き取りにくく、アイデア出しなど、自由な発言が重要な会議では不向きだと感じているという。請求書の処理や、IT機器のメンテナンスなど社内でしかできない業務もあるといい、上司の許可を得た上で、出社するケースもある。
テレワークは多様な人材の活用や地方での雇用機会の創出、業務の効率化を通じた生産性の向上など、さまざまなメリットがあるとされる。ただ、今回のように全社的な在宅勤務が長期間に及ぶような事態はあまり想定されていない。
普段からテレワークを導入している大手損保の担当者は、「新人を今後どう育成していくかは課題だ」と語る。テレワークをするにはある程度、業務に習熟している必要があるからだ。先進的な取り組みをしている企業でも、課題を感じているのが実体だ。
特にサービス業や製造業など、テレワークが難しいとされていた業界からは「営業するなと言っているに等しい」(飲食チェーン)といった悲痛な叫びも聞こえてくる。
実際、こうした業種の多い中小企業はテレワークの導入が遅れており、東京都内のある町工場の社長も「モノづくりの現場なのですべてをテレワークにするのは無理。導入しようにもそのための費用もない」と語る。