続々・長生きは本当に幸せか
糖尿病は悪化すると死期を早めます。糖尿病になると、血液中を流れる「血糖」の濃度が上がり、それによってやがて血管がボロボロになり、合併症として、心筋梗塞などの心臓病、失明、腎不全といった深刻な疾患を招きます。
冬は、とくに糖尿病が悪化する季節。悪化して人工透析を受ける患者が増えるのも、冬から春にかけてが一番多いです。冬になると、運動量が減る上、食生活が乱れがちになるからです。鍋物や汁物、餅などを多く食べるのは禁物です。塩分の取りすぎもいけません。
糖尿病には「1型」と「2型」の2種類があります。「1型」は膵臓からのインスリン分泌が少なくなることで起こりますが、「2型」は、遺伝的な影響に加えて、食生活の偏り、食べ過ぎ、運動不足、肥満などで、インスリンが作用しなくなって起こります。糖尿病患者のうちの95%は「2型」で、日本人はもともと遺伝的に糖尿病になりやすいとされています。そのため、糖尿病の克服が医療界の大きなテーマとされてきました。
いったん糖尿病になると、もう治りません。悪化すると、人工透析をしなければなりません。かつて、人工透析がなかったころは、糖尿病患者はみな早死にしました。その点で、人工透析は画期的な治療法でした。
しかし、治る病気ではないので、年々、透析患者は増え続けています。日本透析学会の調べによると、1983年には5万3017人にすぎなかった透析患者が、2016年には32万9609人まで増加しています。このうち約4割が、「糖尿病性腎症」の患者です。
糖尿病は、かつては「ぜいたく病」のように思われていました。食べすぎて肥満になり、やがて糖尿病になるのは、「自己責任」とも言われていました。
麻生太郎財務相が昨年、「自分で飲み食いして、運動も全然しない人の医療費を、健康に努力している人が払うのは、あほらしい」という内容を、他人の言葉を借りて発言し物議を醸したことがありました。フリーアナが、「自業自得の人工透析患者なんて、全員実費負担にさせよ」と発言して炎上したことも。
しかし、こうした認識は間違っているのです。
近年の調査研究で、糖尿病の不都合な真実が明らかになってきました。ズバリ言ってしまうと、糖尿病は「貧乏病」なのです。
全日本民主医療機関連合会(民医連)が、全国の医療機関96施設で40歳以下の「2型」の患者800人を調査したことがありますが、その結果、わかったのは、年収が200万円未満の世帯が全患者世帯の57・4%を占めていることでした。患者の半数以上が非正規雇用で、低所得層だったのです。
同様な調査は数多くあり、週60時間以上の労働、朝食抜きで午後10時以降に夕食を摂ると発症のリスクが高まるということも報告されています。低所得者層ほど、安価で量が多く、空腹を満たしてくれる食品を多く摂ります。米やパンなどの炭水化物を主体とした食事になり、野菜や肉類をあまり摂りません。
糖尿病が「貧乏病」であることは、全世界同じです。そのため、アメリカ心臓学会(AHA)では、野菜や果物、精製されていない穀類や全粒粉、低脂肪の牛乳や乳製品、皮を取り除いた鶏肉、魚、ナッツ類や大豆などの食品を多く摂り、食生活を改善してくことを推奨しています。
生きることは食べることです。ですが、食べ物を選ばないと長生きはできないのです。
■富家孝(ふけ・たかし)
1972年東京慈恵会医科大学卒業。病院経営の後、「ラ・クイリマ」代表取締役。早大講師、日本女子体育大助教授などを歴任、新日本プロレスリングドクター、医療コンサルタントを務める。『ブラック病院』(イースト・プレス)など著書計67冊。