主張

虐待死の父に判決 裁判員制度の意義どこへ

 裁判員制度は、国民の司法参加により、その日常感覚や常識を判決に反映させることなどを目的に導入された。その趣旨や意義は、果たして貫かれているか。

 東京都目黒区で昨年3月、当時5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんを虐待し死なせたとして保護責任者遺棄致死などの罪に問われた父親の雄大被告の裁判員裁判で東京地裁は懲役13年を言い渡した。

 検察側は懲役18年を求刑していたが、判決は「従来の量刑傾向から踏み出した重い求刑」としてこれを減じ、「最も重い部類を超えた刑を科すべき根拠は見いだせない」と判断した。従来の量刑傾向をはみ出すな、ということだ。

 判決後の裁判員、補充裁判員の会見では審理の苦悩や葛藤が語られた。裁判員を務めた女性は「感情としては、量刑傾向を少し動かしたいとの思いはあった」と述べた。別の男性裁判員も評議で量刑傾向を知ったとし、「自分が思ったところ(量刑)とのギャップが大きかった」と語った。

 裁判員裁判は原則、3人の裁判官と6人の裁判員が合議し、多数決で量刑などを決める。評議の過程には守秘義務が課せられるが、判決後の会見からは、量刑傾向をめぐって裁判官が主導した経緯が透けてみえる。

 裁判員裁判による重罰には上級審がこれを覆す事例が相次いでいる。制度導入後、裁判員裁判による5件の死刑判決が上級審により破棄された。最高裁は裁判員裁判による求刑超えの判決を破棄した際、「同種事案の量刑傾向を考慮することの重要性は裁判員裁判でも変わらない」と述べている。

 評議の際などに利用される量刑検索システムでは、類似事件の量刑を瞬時に調べることができる。だがデータベースが量刑を決めるなら、判決は人工知能(AI)に任せればいい。

 裁判員制度導入の背景には従来の量刑傾向と国民の常識との間に乖離(かいり)があるとの反省があったはずである。先例重視が行き過ぎれば制度そのものの意義を失う。

 亡くなった結愛ちゃんは、ノートに「もうおねがい ゆるして ゆるしてください」などと書き残していた。証拠として提示された文面に、男性裁判員は「衝撃的だった。あの内容を書かせてしまった親に怒り、憤りを感じた」と述べた。これが判決に反映されるべき、国民の日常感覚であろう。