製薬企業の間で、実用化の可能性がありながら経営の都合で研究開発を断念した事業を、ベンチャー企業に移す取り組みが広がっている。大日本住友製薬は15年以上研究してきた痛みの治療薬について「研究の優先度は低い」と経営判断し、ベンチャーを設立して特許権を移転。独立したベンチャーが実用化を目指している。新薬の研究開発は莫大(ばくだい)な時間と資金、人材を要するため、同時に進められる数は限られ、ストップするケースは少なくない。こうした事業のベンチャーへの移転は、新薬を世に送り出す方法の一つとして期待される。(安田奈緒美)
■将来性はあるが…
大日本住友が研究を続けてきた痛みの治療薬の実用化を目指して今年4月、ベンチャー企業「アルファナビファーマ」が始動した。常勤するのは、3月末まで大日本住友の社員としてこの研究や治験に携わってきた小山田義博代表取締役(50)、林洋次取締役(49)の2人だ。
開発中の疼痛(とうつう)薬は、末梢(まっしょう)神経の痛みの原因である遺伝子変異の働きを妨げるという。ただ、大日本住友は現在、がんと精神神経、再生医療の研究開発に重点を置き、痛みの分野は優先順位が低い。この薬は15年も研究し、平成28年までに安全性を確かめる治験(臨床試験)を米国、欧州、日本で済ませたが、その後、開発計画はストップした。
林氏は「アメリカの開発トップに継続を直訴したこともあるが、将来性は理解してもらっても、経営判断から優先順位が上がることはなかった」と振り返る。
■「疳の虫」に効く薬
そんなとき、京都大の投資会社「京都大学イノベーションキャピタル」が関心を示し、ベンチャーとしての独立を条件に投資を決定した。現在、アルファナビファーマは大日本住友の研究所の一部を間借りして研究開発を継続。京大と秋田大が共同研究を進める「小児四肢(しし)疼痛発作症」の治療薬として令和7年の実用化を目指している。