ロシアの思惑を読み違え、北方四島返還の原則を曲げて迎合した結果にほかならない。
大阪で行われた日露首脳会談で懸案の北方領土問題に関する進展はなかった。安倍晋三首相は今回の会談で日露平和条約の大筋合意を目指す考えだったが、危惧した通りの独り相撲だった。
安倍首相は昨年11月、プーチン露大統領との間で、1956年の日ソ共同宣言に基づいて平和条約締結交渉を加速させると合意した。共同宣言が言及している色丹島と歯舞群島の2島に絞って交渉を進めるという、事実上の方針転換だった。
ロシアが突きつけたのはゼロ回答である。北方領土の主権がロシアにあることを認めるよう要求し、日米安全保障条約が日露交渉の障害になっていると主張している。日本がとうてい認められない内容だ。
旧ソ連は大戦末期の45年8月、日ソ中立条約を破って対日参戦し、国後、択捉、色丹、歯舞の北方四島を不法占拠した。四島は日本固有の領土であり、他国に帰属したことは一度もない。
日ソ共同宣言は、日本が領土交渉の継続を約束させた上で署名した文書である。これ以後、日本は領土問題の解決を目指し、交渉や合意を地道に積み上げた。
93年の東京宣言をはじめとする重要な合意を軽視し、日ソ共同宣言に立ち返ると表明した日本の足元をロシアは見ている。
プーチン氏の国内での求心力には陰りが見られ、国際舞台では米国と中露が対立する構図が深まっている。プーチン氏は「交渉を継続する」と述べているが、日本の経済・技術協力を引き出し、時に中国を牽制(けんせい)するために日本を利用しているのが現実だ。
安倍首相は2016年、「新しいアプローチ」による平和条約交渉を唱え、8項目の経済協力プランを打ち出した。しかし、日本の投資規模に露高官が不満を表明する始末で、領土交渉の前進につながっていないのは明白だ。
北方領土の返還こそが日露関係を劇的に好転させる前提条件であり、ロシアの望む大規模な経済協力にも道を開く。日本はこのことを強くロシアに訴え、交渉を大胆に仕切り直すべきである。
北方領土問題という国家主権侵害に日本がどう対処するかを、他の近隣諸国が注視している。