米国と北朝鮮との緊張緩和ばかりが強調され、東アジアの平和にとって最大の懸案である非核化が置き去りにされないか強い不安を覚える。
南北軍事境界線の非武装地帯(DMZ)にある板門店で電撃的に行われたトランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との首脳会談のことだ。
前日、トランプ氏が20カ国・地域首脳会議(G20サミット)開催中の大阪から呼びかけ、金氏が応じた。トランプ氏は米大統領として初めて休戦ラインを越え、北朝鮮側に足を踏み入れた。
2人の良好な関係をアピールするには格好の舞台となった。トランプ氏は「歴史的な瞬間」、金氏は「平和の握手だ」と語った。
だが、米朝交渉の目指すところは北朝鮮の完全な非核化であり、この点で実質的な進展があったのか、極めて心もとない。
2月末の2度目の首脳会談は物別れに終わり、米朝非核化交渉は行き詰まった。それが、2人が直面する現実であるはずだ。
なのにトランプ氏は再三、北朝鮮が核実験や長距離弾道ミサイル発射を行っていないことを自らの「成果」として強調し、現状を肯定した。
軍事挑発を控えていても、北朝鮮が核・弾道ミサイルを放棄したわけではなく、平和への脅威であることに変わりはない。
5月の短距離弾道ミサイル発射は、国連安全保障理事会の決議に違反しており、「問題視しない」というのは明らかにおかしい。
昨年6月の初会談は、非核化交渉への入り口であり、首脳同士が会うこと自体に意味があった。
だが、いま求められているのは、北朝鮮による非核化に向けた具体的行動である。核物質、核兵器、関連施設の全てを申告し、検証を受け入れ、生物、化学兵器、弾道ミサイルを含め、いつまでに廃棄するか工程表を示す。それが制裁緩和の大前提だ。
トランプ氏は2~3週間以内に、米朝間で実務協議を開始するとも述べた。首脳会談が、実質的な非核化交渉の契機となれば、評価されよう。
逆に、融和ムードが広がる事態は危うい。会談には韓国の文在寅大統領も同行した。金氏は最近、中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領とも会っている。非核化に向け、圧力維持を貫徹しなければならない。