主張

元次官が長男殺害 悲劇は避けられたはずだ

 自宅で長男を刺殺したとして元農林水産事務次官の熊沢英昭容疑者が逮捕された。

 44歳の長男は自宅に引きこもり、両親への暴力を繰り返していた。川崎市では児童ら20人が殺傷される事件があったばかりで、熊沢容疑者は「長男も人に危害を加えるかもしれないと思った」と供述しているという。

 川崎の事件の容疑者も引きこもりがちだったことから、両事件と引きこもりとの因果関係が注目されている。だが引きこもる人が必ず犯罪を起こすわけではない。根本匠厚生労働相も「安易に引きこもりと(事件を)結びつけることは厳に慎むべきだ」と述べた。

 その通りだが、一方で両事件の背景に深刻な引きこもりの問題があったことも事実である。加えて熊沢容疑者の長男の場合は、中学生のころから母親への家庭内暴力が始まった。犯行後の容疑者の体にもあざがあり、身の危険を感じていたという。

 事件当日は隣接する小学校の運動会の音に腹を立てた長男が「うるせえな、ぶっ殺してやる」と口にし、川崎の事件の連想から容疑者が長男の他害を恐れ、犯行に及んだ可能性が指摘されている。

 こうした事情から容疑者に同情的な見方もある。だが殺害に及ぶ前に、できること、やるべきことがあったはずだ。

 引きこもりの相談窓口は厚生労働省が全国の都道府県や政令指定都市に設置する「ひきこもり地域支援センター」などにあるが、家族や本人からの申告がなければ支援を始めることができない。

 家庭内暴力はすでに犯罪であり警察や関係窓口に相談すべきだった。疾患による他害の恐れがあれば、医療機関の診断を経て精神保健福祉法に基づく「措置入院」とすることも考えられた。

 公的機関や専門家の介入や助言を求めることなく、最悪の結果を招いたことが残念でならない。元高級官僚の見栄(みえ)やプライドがその邪魔をしたとすれば、それこそ不幸である。

 社会の側にも問題はある。措置入院は医療行為の枠内で運用されるため、犯罪抑止に資することができない。英独などで制度化されている犯罪予防的に司法が関与する「治療処分」の導入は「人権侵害」などの反発から検討が進まない。制度が事件の芽をつんだ可能性は、十分にあったのだ。

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