【胆のう胆管の病気に気をつけろ!】
胆石症や胆のう炎などで手術を受ける際には、その術式(開腹か腹腔鏡か)、術者の経験、そもそも本当に手術が必要なのかどうかを十分に確認する必要がある。
新東京病院(千葉県松戸市)の本田五郎医師は語る。
「少なくともその時点で痛みなどの症状がないなら、すぐに手術をする必要はない。他の医師の意見を聞いてからでも遅くない」
もし、セカンドオピニオンの末に、やはり手術をすべきとなった時も、医師選び、病院選びは慎重に行いたい。
まず、考えなければならないのが「症例数」だ。数が多ければいいというものではないが、経験が少ないよりは、数多くその手術を行っている病院や医師のほうが安心だ。
もう一つ、無闇に「大学病院」や「ブランド病院」にこだわるのも危険だ。胆石や胆のう炎などは良性疾患なので、がん治療に力を入れる大学病院では治療にあまり積極的ではなかったり、若手医師に経験を積ませるための手術として行われたりすることもある。
もちろん大学病院の中にも、東邦大学医療センター大橋病院のように、「胆のう専門外来」を開設して、こだわりを持って取り組んでいるところもある。こうしたところであれば安心感は高まるが、そうした点を考慮せず、単に「大学病院だから」というだけの理由で選ぶのは得策ではない。
それよりも、特に都市部であれば、民間病院や市民病院クラスの医療機関で胆のう疾患治療に特化した治療を行っている医師がいることがある。インターネットで探す、かかりつけ医と相談するなどして、経験と技術のある医師を探す努力をすべきだ。
新東京病院の消化器外科では、医師の経験と技術を数値化し、それに応じた難易度の手術を割り当てる仕組みを導入しているという。
「難度の低い手術から順に執刀数と手術にかかった時間に基準を設け、それをクリアしたら次のステップに進める-という院内ルールを設定したのです。炎症があったり組織が瘢痕(はんこん=傷跡)化して手術が難しそうな症例は経験豊富な医師が担当し、若手はそれを見て学ぶ。こうすることで、病院としてはあらゆるレベルの症例にも安全かつ効果的な手術ができ、外科医は自分の技術に応じた経験を重ねることでのステップアップが可能になります」と本田医師。
経験のない医師が無理をして失敗したり、合併症を引き起こすことを防止する-という意味で、医師の教育と患者の安全確保に適した、合理的な制度といえよう。
欧米型の食生活や肥満傾向など、現代人は誰がいつ、胆のうに病気を起こしても不思議ではない。一方で連載でも紹介したとおり、良性疾患である胆石などの手術で、年間200以上の死亡例が報告されているのも事実だ。
病気になってから慌てるのではなく、日頃から病気の仕組みと医療提供体制の双方の最低限の知識を持つことが重要なのだ。そして、自分や家族がもし胆のうの病気になったとき、この連載のことを思い出していただきたい。(中井広二) =おわり
■監修=新東京病院(千葉県松戸市)消化器外科主任部長・本田五郎医師
■本田五郎(ほんだ・ごろう) 1967年、熊本市生まれ。92年、熊本大学医学部卒業。京都大学医学部付属病院で研修医の後、市立宇和島病院。京大消化器外科、済生会熊本病院、小倉記念病院などを経て、2017年から都立駒込病院外科部長。18年から新東京病院消化器外科主任部長。日本外科学会及び日本消化器外科学会専門医・指導医、日本内視鏡外科学会評議員・技術認定医・技術認定審査委員、日本肝胆膵外科学会評議員・高度技術指導医他。医学博士。