村上春樹さんが父の従軍体験、克明に 「文芸春秋」に寄稿

 作家、村上春樹さん(70)が亡き父の戦時中の従軍体験などを克明につづった寄稿文が10日発売の月刊誌「文芸春秋」6月号に掲載されることが分かった。村上さんが家族の詳細な履歴を文章で公表するのは初めて。

 寄稿のタイトルは「猫を棄てる-父親について語るときに僕の語ること」で計28ページ。父と野球をする幼少期の写真も掲載されている。それによると、平成20年に90歳で死去した父の千秋さんは昭和13(1938)年以降3度応召し、日中戦争の戦地を転戦した。12年の南京攻略戦に参加した部隊に父が所属していたのでは、との疑念を長年抱いていたという村上さん。従軍記録など調べた結果、別の部隊の所属だったと分かり「ひとつ重しが取れたような感覚があった」という。

 ただ、父が生前回想していた戦地での中国兵捕虜殺害の光景と、それがもたらした「トラウマ」を「息子である僕が部分的に継承した」とも明かし「目を背けたくなるようなことであれ、人はそれを自らの一部として引き受けなくてはならない」とした。その上で、数多の偶然が重なって生をつないでいく人間の姿を「雨水」に例え、「一滴の雨水には、一滴の雨水なりの思いがある。一滴の雨水の歴史があり、それを受け継いでいくという一滴の雨水の責務がある。我々はそれを忘れてはならない」と過去を直視し記憶を継承する覚悟を示した。

 父の体験が物語る戦中の暴力や負の記憶は、村上さんの「ねじまき鳥クロニクル」や「騎士団長殺し」といった代表的な長編の題材とも重なる。

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