ロシア赴任から8カ月が過ぎた。ようやく寒さも和らぎ、街を行く人々の顔もどこか明るい。赴任後、驚いていることの一つは、モスクワで一度も野良犬を見ていないことだ。サンクトペテルブルクに留学していた5年前は、ロシア第2の都市でありながら、野良犬は頻繁に見かけていた。
野良犬が消えた理由を調べると、昨年のサッカーW杯ロシア大会に行き着いた。大会前に当局が各都市で野良犬を大量に捕獲し、殺処分したのだ。安全性の確保や外国観戦客に野良犬がうろつく街を見せたくないという考えは理解できなくもないが、動物好きな記者として悲しくなった。
そんな折、先日出張したウクライナ南部ヘルソンやロシアが併合したクリミア半島では野良犬を数多く見かけた。しかし、猛スピードで車が行き交う道路脇をとぼとぼ歩いていたり、ごみ山の中で食べ物をあさっていたり…。車にひかれた死体も何度も目にした。日本でぬくぬくと暮らすわが家の犬との境遇の違いに、別の意味で心が痛んだ。
無論、心ない飼い主のせいで捨てられたり、殺処分されたりする犬がいるのは日本も同じだ。野良犬になっても生きていけるだけ、ましかもしれない。それでも本来、犬は人間と暮らすことを喜ぶ動物だ。人間のエゴで苦しむ動物が少しでも減ることを願ってやまない。(小野田雄一)