主張

和牛受精卵 流出阻止へ総力を挙げよ

 輸出が禁止されている和牛の受精卵が国外へ不正に持ち出されていた。農林水産省は持ち出しを図った人物の刑事告発に向け手続きを進める。

 受精卵は、和牛のブランド力を担保する貴重な遺伝資源である。それが流出し、質の良い牛肉が海外で生産されれば、日本の畜産農家は大きな打撃を被ろう。畜産業の弱体化につながる許し難い行為である。

 同時に、不正な持ち出しを許したずさんな検査体制を見過ごすことはできない。まずは受精卵や精液の流通管理と活用状況を徹底的に見直す。その上で農水省は捜査当局や税関などと連携し、対策の強化を図るべきである。

 吉川貴盛農水相は4日の記者会見で、「大変遺憾だ。農水省として再発防止策を講じなければいけない」と述べ、男性を家畜伝染病予防法違反(輸出検査)の罪で刑事告発する考えを示した。

 今年7月、自称大阪府在住の男性が、船舶で和牛の受精卵を中国に運ぼうとした。受精卵はストローと呼ばれる細長い容器数百本に入れられ、液体窒素を充填(じゅうてん)した特殊容器に保管されていた。

 中国での検査で、日本が輸出を禁じている対象物品であることが判明した。この人物は「違法とは知らなかった」と話している。

 理解に苦しむのは、当初、厳重注意だけでこの人物を解放した農水省や捜査当局の対応だ。常習性が認められず、故意の持ち出しの立証は難しいと判断したためというが、いかにも手ぬるい。

 しかも発覚後、半年近くたってからの告発の検討である。日本農業新聞の報道で明らかにならなければ、立件の意思がなかったと思われても仕方あるまい。隠蔽(いんぺい)しようとした疑いすら持たれよう。

 和牛は、長きにわたって税金などを投じ、育種改良を積み重ねてきた国民の財産だ。高級ブランドとして海外でも人気がある。法規制前に遺伝資源が海を渡り、オーストラリア産「WAGYU」が日本産と競合している例もある。

 同様の遺伝資源の流出は、イチゴやブドウなどの高級品種でもみられる。韓国や中国では、これをもとに新たな品種が無断で開発され、アジアに輸出されている。

 ブランド力のある農畜産品の輸出拡大は、安倍晋三政権が進める成長戦略の柱だ。その根幹にかかわる資源流出を阻むよう、政権を挙げた対応の強化を求めたい。

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