だが、INFからの脱退で事情は一変するとレバイン氏は述べる。脱退すれば「中国にとって悪夢のシナリオ」が実現するというのだ。
悪夢のシナリオ
脱退によって米国は、これまで凍結していた中距離弾道ミサイルや最新の巡航ミサイルの開発に進み、最新のテクノロジーを用いた兵器を配備することが可能になる。同じ長さで、電子的な性能は上回る槍を手にするのだ。これにより、高価でかつ6千人もの兵員が搭乗する原子力空母を「危険な海域」に突入させるよりも「はるかに安価に制海権を維持できる可能性がある」と強調する。さらに全面戦争への拡大も抑止できるという。万一、米空母が撃沈されれば影響は大きく「米指導部もそのまま引き下がれなくなり、状況は一気にエスカレートする危険がある」というのだ。一方で中国にとっては痛手となる。「空母キラー」である、精密終末誘導の性能を備えた中距離弾道ミサイルを米国が多数配備すれば、中国の虎の子の空母も戦闘能力を大きく抑えられるだろう。
さらに「米水上艦を中国に接近させる必要性が減れば、中国国内のミサイル発射基地を攻撃する必要も減る」。実はこれも全面戦争へのエスカレートを避けることにつながるという。中国は核ミサイルと通常弾頭のミサイルを同一部隊に混成配備している。米国が通常ミサイルの無力化を狙って基地を攻撃しても、それは事実上、核ミサイル基地への攻撃となり、中国の核兵器による報復は必定とみられているためだ。
チキンレース
さらにINF削減条約の消滅で中国が米国との核兵器拡充競争に乗り出した場合、かつてのソ連と同じく経済疲弊から破綻につながる可能性もある。