なかでも米国空母を近海に寄せ付けないことを主眼とする準中距離弾道ミサイル「DF-21D型」は、マッハ10(音速の10倍)の速度で米空母を攻撃できるとされる。その速度から迎撃も不可能との分析もあり、多くの米軍事専門家や政治家が脅威を指摘。中国の対米軍事戦略「A2AD」(接近阻止・領域拒否、Anti-Access Area Denial)の象徴ともみられてきたミサイルだ。
ロシアではない
今回の米国によるINF条約破棄の動きは、ロシアが条約に反して巡航ミサイルを開発してきたことに端を発する。具体的には2008年に条約の禁止対象である巡航ミサイルの飛翔テストを行ったことなどがあげられており、トランプ米大統領は「長年にわたり(ロシアが)同条約に違反してきた」と強調している。米国だけが約束を守るのは不公平だというわけだ。
しかし、米外交専門誌「ナショナル・インタレスト」に論文を寄せた米アジア社会政策研究所のネイサン・レバイン氏は、「米国がINF条約から脱退する理由はロシアでも核兵器でもない。アジア太平洋での中国を睨んだものだ」と指摘する。
論文では、中国がINFの枠外にあるため、その制限対象である巡航ミサイルや中距離弾道弾、そして「空母キラー」たる最新の終末誘導装置を備えた弾道ミサイルを数多く配備しているとしたうえで、米国はINF条約を守っており、同種の兵器について開発すらしていないことを問題点としてあげている。
中国が人工島を建設し軍事基地化している南シナ海など西太平洋で中国軍との衝突が生起した場合、中国は中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルという「長い槍」を持つのに、米軍は短距離かつ旧式の各種ミサイルしか手にしていない実情を指摘し、「脆弱な空母配備航空兵力は、強力なA2AD兵器が中国内陸から発射されても、手も足もでない」とする。