嫌われるマスコミの災害報道は「オーダーメイド取材」で一変する - イザ!

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嫌われるマスコミの災害報道は「オーダーメイド取材」で一変する

※オピニオンサイト「iRONNA」に掲載された論考です。肩書などは当時のものです。

堀潤(ジャーナリスト、キャスター)

西日本を襲った豪雨災害は、200人以上の方々が亡くなり、現在も20人以上の方の安否がわかっていません。私は7月7日以降、豪雨被害が大きかった岡山県や広島県の各被災地を回り、被災された方々に今必要な支援が何かを聞いて回りました。

やはり被災者の第一声は水です。飲み水ではありません。生活用水です。トイレや風呂、手や顔を洗う水だけではなく、泥かきをしたり汚れを拭いたりする時に必要な水です。飲料水は支援物資や自衛隊からの給水などでなんとか賄えているのですが、生活用水を確保するのは至難の技です。

広島県三原市では井戸水を利用している世帯が少なくなく、水をくみ上げるモーターを修理し、使用できるようになった水を近所の人たちと共有し、助け合って復旧、復興に取り組んでいました。ただ、課題もあります。地元三原市の社会福祉協議会の方々に話を聞くと、犠牲になった方々の多くが自力で2階に上がることができない知り合いの方々でした。

足の不自由な50歳代の人、90歳を超え一人暮らしだった女性は「近所の誰かが大丈夫か?と訪ねてくれてさえいれば…」と唇を噛み締め、悔しそうに話をされていました。浸水被害がひどかった地域は比較的商業施設などが集まる中心部でした。新しく移り住んできた人も多く、地域の町内会の加入率が年々下がっていることが地元の方々の悩みでした。

女性はさらに「災害が起きると実感するはずです。地域のつながりがどれだけ大切か。普段から顔見知りだったら井戸の水だって借りやすいだろうに。命だって守ることになるんですから」とも語っていました。

実感したのはハザードマップの正確さです。各地を取材した際の共通の質問が「ハザードマップではこの地域はどのような状況でしたか?」です。地元の方々が改めて驚くほど、災害被害は起こるべくして起こるんだということを実感させられました。水害や土砂災害、地震、火災など災害ごとにハザードマップが作られているのをご存じでしょうか。それが何を意味するのかというと、避難先が変わってくるということです。

今回の豪雨災害でも地震などを想定した避難場所が浸水していたケースがありました。自治体からは防災無線を通じて別の高台の避難所の案内をしていましたが、馴染みのない場所で戸惑いが広がったという声も聞きました。災害が起きてからの対応では遅いのです。当たり前のことですが、平時のアクションが自分の大切な人と自分の命と財産を守るための防災です。

そもそも、私たち日本人は災害が発生しやすい国土で生活しています。地震、津波、台風、集中豪雨、そして火山。2011年3月11日に東北沖でマグニチュード(M)9・0の巨大地震が発生した東日本大震災では、10メートルを超える巨大な津波にも襲われ福島県にある東京電力福島第一原発がメルトダウンを起こす大規模な事故を起こしました。放射性物質に汚染された土地を取り戻すためには半世紀近くの時間が必要だとも言われ、私たち日本人は自然災害だけではなく、原子力災害も経験しています。

地震は地中の岩盤同士がぶつかり合いズレることで地表に揺れを引き起こすわけですが、日本には今後もそうしたズレが起きる可能性が高い「活断層」が2千以上あります。世界中の地震の約10回に1回は日本やその周辺で起きているとあって、実は私たちの暮らす地面はとても揺れやすいのです。

特に東日本大震災以降は地震活動が活発で、政府は今後30年以内に東京や神奈川など首都圏でM7級の直下型地震が起きる可能性は70%と予測。東海から九州にかけてM8級の揺れが想定される東海、東南海、南海大地震も88%〜60%と、こちらも高い確率です。いつ起こるのかは分かりませんが、いつ起きてもおかしくないのです。

また、日本は「火山列島」とも呼ばれ、噴火する可能性のある「活火山」が全国に110もあります。実は、あの富士山も活火山です。いつ噴火してもおかしくはありません。山梨県、静岡県、神奈川県では富士山噴火に備えた避難訓練が行われたりしています。富士山が噴火すると当然東京などにも影響が出ます。火山灰が降り積もり、新幹線や高速道路など交通網がマヒ。灰の影響で水道や電気、ガスが長期間ストップ。ジェット機も飛び立てなくなり、東京が陸の孤島になり混乱することも予想されています。

「これだけ色々な予測がされているのであれば備えも万全だろう」と思いがちですが、冒頭述べた通り、災害には「想定外」がつきものです。例えば、国は熊本地震のように震度7の地震が連続して起きることは想定していなかったと言います。災害発生時の対応をまとめた全国の自治体の防災計画の多くで「想定外」だったということも報道機関の調べで分かりました。

熊本の地震では1度目の震度7の地震で避難所に避難した人に加えて、さらに規模の大きな揺れに襲われ「もうダメだ」と思った人たちが一気に避難所に向かいました。最大で20万人とも言われる避難者の数、小学校や中学校の体育館には収まりきらず、校庭や渡り廊下といった屋外で野宿をせざるをえない人たちも大勢いました。

一方、そうして人があふれた避難所をあきらめ、仕方がなく自分の車の中で寝泊まりする人たちも少なくありませんでした。「赤ん坊が泣いて迷惑になるといけないから」「持病があって硬い床で寝られないから」「余震が怖くて建物の中にいたくないから」など理由は様々です。

私が取材をしていた家族は親と子供の4人で3週間以上車で避難生活を続けました。避難所ではないので食料の配給も受けられず自力で調達。狭い車内で同じ姿勢のまま過ごすことで体調を壊す人もいます。「エコノミー症候群」と言って血のめぐりが悪くなり血管が詰まるなどして、最悪、死にいたる症状です。絶えず体を動かしたり、血のめぐりが良くなるようにマッサージをしたり工夫が必要でした。

食料の確保が大変だったのは、車中避難の人たちばかりではありません。避難所でも圧倒的に食料が足りずに苦労した人たちもいました。災害時の対応などを定めた法律「災害対策基本法」の中には「指定緊急避難場所」と「指定避難所」という言葉が出てきます。前者は地震や津波からいち早く身を守るために逃げ込むことができる高台や公園などにある安全な場所や施設。後者はそこに留まって食糧支援などを受けながら避難生活を送ることができる施設を指します。

災害による影響が比較的少ない場所であることや生活物資の運搬がしやすい環境であることなど、法律によって条件が定められています。ですから、すべての小・中学校などの避難所がこの「指定避難所」ではありません。

熊本地震では、避難した人が身を寄せた避難所が「指定避難所」なのかどうかで状況が大きく異なりました。指定避難所の小学校に避難した人は自治体からの物資や自衛隊からの支援を優先的に受けられました。しかし、同じ区内の小学校でも「指定避難所」ではなかった場合は、避難した人たちが自力で食料を調達しなくてはならず、大変苦労したのです。

10カ月の赤ん坊を抱えたお母さんは避難した体育館で「ここは指定避難所ではないので、食料は届きません。自力で調達が必要です」と言われた時には目の前が真っ暗になったと言っていました。そうした避難所ではインターネットを使うなどして全国からの直接支援でなんとか水や食べ物をかき集め、なんとか凌(しの)いだという状況でした。

「何のための地元局か」

今回の西日本豪雨や熊本地震のように、首都圏が被災地にならない場合、相対的にテレビの報道量が減っていくのが体感として分かります。台風などは顕著な例であり、首都圏に上陸が予想される場合とその他の地域の場合とでは中継体制の力の入れように温度差があるのは明らかです。全国ネットの放送は東京一極集中であり、首都機能や交通、物流などに与える影響の大きさを考えると、首都圏の情報に重きを置くテレビ局の判断も分からなくはありません。

西日本豪雨の被害の大きさを考えると、首都圏が台風を迎え撃つ時のように事前の特番体制で報じるべきだったという声が上がるのは必然です。ただ、進路や速度などをもとに被害予測をたてやすい台風と短期間で変化に富む集中豪雨災害とでは勝手が違ったのかもしれません。

岡山県に住む方からこんなメールをいただきました。

6日夜、県の広い範囲に避難指示が出されていたにもかかわらず、ニュースでずっと報道していたのは、NHKのみでした。11時半過ぎ、地震かと思うような揺れがあり、家族がツイートやLINEで情報収集すると、浸水で避難途中の真備の友人から、工場爆発との知らせがありました。ツイートを見ると、津山でも揺れ、県内騒然とするなか、民放は、警報のテロップだけで、通販番組とか、いつもの放送内容でした…。日付がかわり7日のNHKニュースの総社市長のコメントで、爆発だと知った人もたくさんいたと思います。豪雨の犠牲者は、お年寄りばかり。岡山県も高齢化が進み、頼りの情報源はラジオTVという一人暮らしのお年寄りもたくさんいると思います。何のための地元局か、と怒りが。

お怒りはごもっともです。逆に、NHKの責任の重さも感じます。個人的には、被害の大きさを量で測るのには抵抗があり、ましてや1人の命も、100人の命もそれぞれ同じ重さであると思いたいものです。

私がNHKを辞め、自由な発信の場を求めた理由の一つが災害報道のあり方に疑問を感じたからです。今年でフリーになって5年になりますが、その間発生したさまざまな災害報道では常にそこで暮らす一人一人の生活者の皆さんとの連携を第一に掲げてきました。

2年前の熊本地震以降、大きな災害が発生すると私はまず自分のLINE IDをツイッターやフェイスブックで公開し、被災者の方とつながりながら、現場が最も必要としている発信を支援する取り組みを始めています。

拡散した災害情報

災害時の会員制交流サイト(SNS)には悪意あるデマのみならず、古い情報がそのままリツイートされ誤解を生んだり、伝言ゲームで不正確な表現となり結果としてデマになってしまうケースなど、まさに玉石混交、さまざまな情報が流布します。そうした中に、被災者本人の本当のSOSが埋もれていってしまうことがあります。

フォロワー数の少ない個人が発信するよりもより強い拡散力を持つアカウントから発信してもらった方が多くの人にSOSが届く可能性が高まります。情報を精査、検証する力やより多くの人たちに短い時間で情報を届けるノウハウが求められますが、私のようなSNS使いのテレビマンにとっては何か役に立てそうだと思い、熱心に取り組んでいる支援の一つです。

例えば、今回の西日本豪雨では私が公開したLINE IDには愛媛県西予市野村、広島県呉市天応西条、岡山県総社市下原などで孤立したり、救援が必要な住民の皆さんやそのご家族、約20名の方から切実な連絡が入りました。

8日午前、広島県呉市天応西条3丁目の36歳の男性からのSOSは、20名から30名が今も川の決壊で孤立したままだという内容でした。1歳と12歳のお子さんがいるとのことで、そのうち持病のある12歳のお子さんの薬が明日までしかなく、発作が起きるのが心配だというのです。せめて薬だけでも届けてもらえないかと、男性は私に発信の支援を求めてきたのです。男性がLINEに送ってきてくれた動画を見ると、家の目の前の道路が崩壊し目の前を茶色く濁った泥水がものすごい勢いで流れていく様子でした。

撮影は8日早朝です。男性の身元の確認や映像の検証などをこちらで行い、ツイッターや各SNSで発信したところ、瞬く間に50万を超えるアカウントからのアクセスがあり拡散されていきました。そして、それから5時間後。「堀さん!お力を貸してくれたみなさん。どうもありがとうこざいます。無事救助連絡、そして子供の薬も5日分もらえました!本当に心から感謝します。救助ヘリも何機かきてもらい、具合が悪い方の救助もしてもらえました!断水状態も続きまだ不安定ですが、頑張ります」と男性から連絡が入ったのです。

情報が途絶え、孤立した状況が続く中、SNSに寄せられる人々の声が男性やその家族を励ましたと言います。このように情報を寄せてくださった方々の元にはその後一人一人直接会いに行きます。今日の時点で岡山や広島から連絡をくれた人たちを直接訪ね、さらなる追加取材を行っています。オーダーメイド型の取材で被災者の切迫したニーズを満たす、これも新しい時代の報道の在り方なのではと思っています。

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