孤独死が社会問題となり遺品整理のニーズが高まる中で、生きているうちに物心両面を整える「生前整理」という考え方に注目が集まっている。大阪を中心に講師として活躍する女性は、がんと闘いながら各地をめぐっているという。「死と向き合ったからこそ、伝えられることがある」。後悔なく今を生きるために、生前整理の大切さを説いている。
泣きながら頭に浮かんだ家族のこと
「まさか自分が」
大阪府枚方市の中川智子さん(61)が生前整理に出合ったのは、乳がんを患ったのがきっかけだった。平成19年の春、首や腕のしびれを感じて病院に行った。検査で乳がんと分かり、手術を受けることが決まった。
現実が受け入れられず、半日泣き続けた。同時に頭に浮かんだのが、家族のことだった。当時パートをしながら、家事は一手に担っていた。家の中のどこに何があり、生活費や家のローンはどうなっているのか。もし自分がいなくなったら-。入院までの数日間、必要なことを書き起こした。親しい知人への手紙もしたためた。
摘出手術後も抗がん剤の投与や放射線治療が続き、常に死を意識する日々を送った。「家族のために身の回りを整理しておこう」と足を運んだ片付け講座で、生前整理を知ったという。そしてその考え方は、自分ががんを宣告されてから取った行動と一致していた。