トランプ米大統領が国連総会の一般討論演説で北朝鮮の人権侵害を非難し、「日本人の13歳の少女が拉致された」と述べた。拉致被害者、横田めぐみさんに言及したものである。
米国の大統領が国連の場で拉致問題の非人道性を訴えたのは、これが初めてである。めぐみさんの母、早紀江さんは「非常にありがたい。解決へ、少し風が向いたように感じる」と話した。
日本政府はこの機を逃さず、拉致問題に決着をつけるべく、全力を傾けてほしい。決着とは、被害者全員の解放、帰国である。
拉致は、金正恩朝鮮労働党委員長の父、金正日国防委員長がこれを認めた北朝鮮の国家機関による誘拐事件である。犯罪者である北朝鮮側には本来、何一つ抗弁の材料はないはずだ。
しかし北朝鮮は、2014年のストックホルム合意に基づく調査の約束を反故(ほご)にしたまま、被害者家族らの懸命の訴えに耳を貸そうとさえしない。
北朝鮮を「ならず者体制だ」と指摘し、軍事攻撃に踏み切れば「北朝鮮は完全に破壊される」と強調したトランプ氏の演説は、拉致問題の膠着(こうちゃく)状態を打破する契機となり得る。
02年1月、ブッシュ米大統領は一般教書演説で、北朝鮮を「悪の枢軸」と批判した。同年9月、金正日氏が訪朝した当時の小泉純一郎首相に拉致を認め、謝罪した。10月には、蓮池薫さんら5人の拉致被害者が帰国した。
米国の圧力が譲歩を引き出した前例である。
トランプ氏の演説を引き出したのは、直前に訪米して拉致問題の解決や北朝鮮のテロ支援国家再指定を訴えためぐみさんの弟、拓也さんら家族の努力も大きかったろう。日本政府の働きかけもあったはずである。