産経抄

東京新聞のやり方を「桐生悠々なら何と評するでしょうか」 9月12日

 日曜の朝、起き抜けに東京新聞を開いたら、長文の社説の見出しが目に留まった。「桐生悠々と…」。日本人で初めて100メートルの「10秒の壁」を突破した桐生祥秀(よしひで)選手のことかと、寝ぼけ頭は勘違いをしてしまった。

 ▼見出しは「防空演習」と続く。桐生悠々は、明治から昭和初期にかけて活躍した反骨のジャーナリストである。東京新聞を発行する中日新聞の前身の一つ、新愛知新聞でも健筆を振るった。信濃毎日新聞の主筆だった昭和8年、軍部の怒りを買って新聞界を追われる。そのきっかけとなったのが、「関東防空大演習を嗤(わら)う」と題した評論である。

 ▼当時関東の上空では、陸軍の演習が行われ、多数の航空機が参加していた。悠々によれば、実際には役に立たない演習である。すべての敵機を撃ち落とすのは不可能だからだ。攻撃を免れた敵機が落とす爆弾が、木造家屋の多い東京を「一挙に焼土たらしめる」。悠々の指摘は、12年後の東京大空襲で現実のものとなる。

 ▼東京新聞はここで、北朝鮮の弾道ミサイルに備えたJアラートと住民の避難訓練を持ち出して、読者に問いかける。防空演習を嗤った「桐生悠々なら何と評するでしょうか」。要するに、軍事的な脅威をあおるより、外交努力を尽くすことが先決というのだ。

 ▼もっとも、評論の内容を知る人は、違和感を覚えるはずだ。敵機の来襲を探知して、日本の領土に達する前に迎え撃て。これが悠々の主張である。現在の状況にあてはめれば、ミサイル防衛の強化に他ならない。

 ▼東京新聞の社説は、防衛力を高めよ、との評論の趣旨を無視している。都合のいいところだけを抜き出して、政権批判に結びつける。そんなやり方を「桐生悠々なら何と評するでしょうか」。

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