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そのとき、フジテレビの中継チームは、新王者誕生を確信していました。5月20日に行われた東京・有明コロシアムで行われたWBA世界ミドル級王座決定戦。私たちは12ラウンドの試合終了直後、すぐに歴史的勝利のインタビュー準備に取りかかりました。
ロンドン五輪金メダルから4年。日本人には高すぎるといわれたミドル級の壁をこじ開けた村田諒太選手が何を話すのか。視聴者の関心もそこに集まっていたはずです。少なくとも、誰も敗戦を予想していなかったはずでした。
しかし、リング上へ渡された採点表を見て、思わず息をのみました。
「村田君、1-2で負けてます…」「村田が負け?!」「これは計算違いですか? いや、でも積算表も付いていて計算は合ってますよね…」「エンダム、勝利…」「コールするしかありませんね…」
中継チームの間で会場での勝利者コールまでのわずかな時間に交わされた会話の内容です。
「チャンピオン、アッサン・エンダム」。コールされた瞬間、会場はどんな空気に包まれるんだろう…。正直、恐ろしくなりました。そして、まさにリング上で右腕を突き上げる準備をしている村田選手のボクシング人生はどうなってしまうんだろう…。
背筋が凍りつくような時間の中、勝者は告げられました。会場は怒号が飛び交うことなく、静まり返りました。予想外の結果に、誰もが言葉を失っているようでした。