日本のホスピスの草分けとして知られる淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区)でがん患者らに寄り添う藤井理恵さん(57)が、チャプレン(病院付き牧師)として27年目の春を迎えた。患者の話に耳を傾け、死を目前にした「魂の痛み」を手当てする専門職。これまで約330人のみとりに携わった。慣れることはない。辞めたいと思ったこともない。定年までの3年を、初心者の気持ちでベッドサイドに座り続ける覚悟でいる。(小野木康雄)
死を意識せざるを得ないがんなどの病気では、肉体や精神の苦痛、お金や家族関係など社会的な苦痛に加え、存在を根底から揺さぶる問いが生じる。なぜ自分が病気になったのか。生きていて何の意味があるのか-。世界保健機関(WHO)が「スピリチュアルペイン」と呼ぶ苦痛だ。
藤井さんは、これを「魂の痛み」と解釈し、ケアをする。看護師ら病棟のスタッフが、会った方がいいと判断した患者から同意を得た上で、藤井さんに病室への訪問を依頼する。
基本は話を聞くこと。患者という役割に疲れた人は、医師や看護師、ときに家族にさえ打ち明けない胸の内を語る。自分なりの「答え」を見つけるまで、藤井さんはそっと待つ。
藤井さんはクリスチャンの家庭で生まれ育った。当初は製薬会社に勤務していたが、同僚の自殺にショックを受け、関西学院大(兵庫県西宮市)の神学部に編入。双子の姉が大病を患ったことで医療現場に関心を持ち、平成3年、チャプレンとして淀川キリスト教病院に再就職した。