■1月31日
「真冬の世界新」にはびっくりした。スキーW杯のジャンプ女子で高梨沙羅が通算50勝を達成するなどウインタースポーツ真っ盛りの中、競泳男子200メートル平泳ぎで渡辺一平(早大2年)の世界新のビッグニュース。それも冬場よく耳にする短水路(25メートル)の世界新でなく、長水路の辰巳国際水泳場で世界初の2分6秒(67)台突入だ。
まるでミカンやイチゴが並ぶ冬のくだもの店の店先に季節感をひっくり返し、温室栽培の高級スイカが登場したようなもの。「いまの水泳はなんでもありの世の中の激変と同様で、夏も冬もなくなっている」と、1972年ミュンヘン五輪平泳ぎ金メダリストの田口信教氏(鹿屋体大教授)。
冬場は基礎体力の強化や泳法チェックなどの調整期間だが、昨夏のリオ五輪代表でもあった渡辺は、五輪後徹底的に下半身を鍛え抜き「前半から行って限界を超えろ」というコーチの指示通りに泳いだという。舞台となった東京都選手権は特に大きな大会につながる選考レースでもなく、気楽に泳げたこともあったのだろう。
この大会は3年前から「北島康介杯」として開催され、平泳ぎで五輪2大会連続2冠の北島氏の後進を育てるという趣旨にはぴったりでもあった。テレビで渡辺の泳ぎを見た田口氏は、こう分析する。「北島君と同じで、手首の使い方や足首のしなりがいい。頭をうまく沈め、体をとがらせたいい泳ぎに見えた」。
とはいえ、門外漢には「ちょっとピークが…」との心配もある。せっかくの高級スイカ。汗をかきながら食べる方が…と夏までとっておきたい気もするが、東京五輪を目指し夏も冬もない19歳の渡辺には余計なお世話というものだろう。 (今村忠)